(Part 2 からの続き〕
速水 健朗:
文化系トークラジオ Life 、今夜は『コロナ下の「新・日常」を生きる』というテーマでお送りしています。今経済のパートを送りしましたが、ちょっといくつか働きかたなんかも含めてメッセージ読んでいきたいと思います。
ラジオネーム、イエロー軍曹さん、20 代の会社員のかたですね。「私は老人ホームで働いています。そんな介護現場もコロナウイルスのせいで大きな問題が起きています。例えば家族でも面会謝絶し、職員しか施設に入れません。そのため『私のおじいちゃん元気にしてますか』という電話を毎日十数件応対しています。これだけではなくマスクや消毒液がなかなか入ってこないため、衛生管理ができにくくなっています。職員も大変な思いをして対応しているので、いち早く収束して家族のみなさんも面会できるようになってほしいです。」
という介護現場、まさに Zoom で仕事なんてできないエッセンシャルワークの最前線のかたからもメッセージ来ています。
もう1通、男性・武蔵村山市。「コロナで変わったことを。自分の生活では確実にトラック宅配ドライバーをライフラインと認める世間の声が少しだけ大きくなったことです。最近はコンビニもゴミ箱撤去やトイレ使用不可能になり、我々ドライバーはどこで用を足せばいいのでしょうか。コンビニも時短になって店も減り、ドライバー環境は悪くなるばかりです。今の日本は9割トラック輸送です。しかも年々ドライバーは減り、先ほど書いたとおり環境が厳しくなります。なのにいまだ配送料無料とか時間指定とかもキツキツカツカツなんです。もう少しだけドライバーに優しくてください。5分 10 分遅れたからって怒らないでください。」
というね、ロジスティック関連のかたからも来ています。Zoom でも置き換えできない仕事のかたがたっていうのがね、野村さん、メッセージも読ませていただきましたが。
野村 高文:
そうですね。物流は本当に今重要性がまた格段に増してますよね。
速水 健朗:
以前もラスト・ワンマイルって言われていた部分が、さらに重要度を増している。そして明らかに人手不足が起こっているっていう意味では、今後も油断できないというか重視していかなければいけない仕事、エッセンシャルワークって言いかた、非常に、このタイミングで知った言葉というか、改めて考えさせられるワードだと思います。
次のコーナーへ行ってみたいと思います。バリューブックス社外取締役で NUMABOOKS 代表、「本屋 B&B」共同経営者でもある、内沼晋太郎さん、電話繋がっています。内沼さん、こんばんは。
内沼 晋太郎:
こんばんは。
速水 健朗:
内沼さん、ひさびさじゃなくてね、今年に入ってから会いましたけどね。そのときは内沼さんの事務所のパーティーにちょっとお邪魔してっていう、あれがもう今年なんだけどずいぶん昔のような気がします。
内沼 晋太郎:
そうですね。
速水 健朗:
さて、内沼さん今移住先ですか、お仕事は。
内沼 晋太郎:
はい、僕は〔長野県の〕上田に住んでいるので、今は上田にいます。
速水 健朗:
お仕事、ブログなんかで「こういう状況ですよ」みたいな話もされていましたが、今お仕事どうでしょうか。
内沼 晋太郎:
バリューブックスのほうは倉庫で買取販売をやっているわけです。やっぱり人員を減らしてやっていかなければならないと。
速水 健朗:
密になっちゃいけないと。
内沼 晋太郎:
はい、というのもあるので、箱数制限というのをしてまして、送っていただく本を3箱までというふうに制限をさせていただいていて。少ない箱数で送ってくださいねというお願いを――大量のものだとさばけないのでっていうようなことをさせていただいたりとかして。
それでも通常通り買取販売ができるようにっていうようなところでやっているんですけど。自分の店のほうも、先ほどからいろんなかたがそういう話されてましたけど、そういう意味では喋る仕事っていうよりは、書店っていうのは当然人が集まって販売をするような場所になるわけで。
速水 健朗:
内沼さんのやってきた B&B とかっていうのは、人を集める本屋さんっていうのを趣旨として大きく打ち出してやってきたわけですよね。
内沼 晋太郎:
そうなんです。おっしゃる通りで、僕らの店は特に書店でもちろんお客さんが本を買いに来るっていうのもあるんですけども、毎晩トークイベントをやることをメインの事業にしてきたので、そうなってくると仮に今コロナウイルスの件が落ち着いて人が出歩くようになったとしても、そのイベントに 50 人だの 80 人だの人を集めて、そこで人の話を聞くっていうのが戻ってくるのは相当先だろうなというふうに――一番最後に戻ってくる分野だろうなと思っているので。
速水 健朗:
たしかに再開していくなかでも、優先順位はそんなに高くないんじゃないかということですね。
内沼 晋太郎:
普通に考えるとなかなかみなさん人が集まる場所に行くようになるにはもう少し時間が掛かるんじゃないかなと思ったときに、全然違うビジネスっていうか、今まで僕らが本屋として作ってきたものを活かしながら、人を集めてイベントをやるっていうこと以外に、どういうことができるんだっけっていうことは根本から考え直してやっていかないとまずいよねっていうのところで、今一旦休業しながらみんなで考えているようなとこですね。
速水 健朗:
なるほど。そのなかでの活動もちょっと新しい活動ありますよね。
内沼 晋太郎:
そうですね、いろいろやってるんですけれども、一つはお店のほうではオンラインで Zoom でイベントをやらしてもらったりとか、あとはオンライン・ストアをオープンしまして。そこでデジタルリトルプレスって僕らは呼んでるんですけれども、電子書籍なんですが、Amazon で売ったりしているようなものじゃない電子書籍を販売すると。
それってどういうものかというと、例えば作家さんが書いて、あの雑誌に一回発表したんだけど、単行本には収録されてないような原稿とかをお預かりして、こちらでそれを販売させてもらったりとか、そういうようなことやったりしながら。
あとは自分の店のこと以外には、ブックストア・エイドっていうクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げまして。そちらのほうで今も書店も古書店もそれぞれちょっと扱いも違っていろいろ窮状もバラバラなんですけども、皆さん大変なところなので、少しでもその本屋さんにお金を集めようっていうことで、書店を作ろうっていうクラウドファンディングの事務局もやっていまして。つい本日夕方に1千万円を突破したところなんですけど。
本屋さんを支えたい。 ブックストア・エイド(Bookstore AID)基金 – クラウドファンディングのMotionGallery
https://motion-gallery.net/projects/bookstoreaid
速水 健朗:
今ブックストア・エイド、ホームページこちら見ていますが。本屋さんを支えたいブックストア・エイド基金という形で、これ、全国の書店・古書店を支援しようという有志のプロジェクト。これ斉藤さんも――。
斉藤 哲也:
賛同者として名を連ねさせてもらいつつ、クラウドファンディングも少し投じてましたけど、金額は結構いろんな刻みでできるんですよね、これ。それこそ千円単位から、何万何十万と払いたい人、小刻みでできるので、それぞれの余力に応じて本屋さんを支援していただければなと思います。
内沼 晋太郎:
ありがとうございます。
速水 健朗:
どういうきっかけで、そのプロジェクトが始まったんでしょうか、内沼さん。
内沼 晋太郎:
自分の店もそうなんですけど、自分のお店でさえというとあれなんですが、なかなかこう、これからどうしていけばいいんだろうって思ったときに、他にも当然全国の書店とか古書店はこの状況に対してスピーディーに動き出せるところばかりじゃないですよね。
実際に小さいところなんかでは「もうやめようかな」みたいな話とかってやっぱりどんどん出てきちゃって、この状況が続いていくとほんとに街から本屋さんがなくなっていっちゃったりするじゃないかという話をしていて。
最初に fuzkue っていう、初台と下北沢にあるお店があるんですが、そこの阿久津さんていう人が書店を救うような基金を立ち上げられないかっていうようなことを言い始めて。「まあ、じゃあそれ、ぜひやりましょう」っていうことで、ちょっと突貫で立ち上げてやったような感じですね。
fuzkue | 本の読める店
https://fuzkue.com/
速水 健朗:
先ほど集まった額の話を伺いしましたけど、反響、手応えみたいなものって感じますか。
内沼 晋太郎:
もちろんすごく感じてます。まだ3日ぐらいなんですけど、1000 万円集まったっていうのは普通のクラウドファンディングのプロジェクトとしては相当なスピードだとは思うんですけど。一方で目標にしてる金額は今 6000 万というふうに一旦していて、しかもどんどん参加書店も募っているので、必要な金額って本当に1億2億とかってどんどん必要になってくるところではあるので。
先に立ち上がってるミニシアター・エイドっていうものがありまして、それが今2億円ぐらいっていうので、映画好きっていう人たちが2億円ってお金を長い時間掛けて集めて投じているっていうところで、本好きってのも当然それに負けないぐらいというか、本とか本屋が大事な人っていうのはもっともっといるんじゃないかなっていうふうには思っているので、ぜひいろんな人に注目してもらえるといいなって思っています。
未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援 ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金 – クラウドファンディングのMotionGallery
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid
速水 健朗:
これは古本屋に限らず新刊書店の小規模なものも合わせて、個人経営の小さな書店全般というふうに思えばいいですか。
内沼 晋太郎:
新刊書店も古本屋もそうですし、個人経営というふうにもうたっていなくて、極論ほんとに――全国に新刊書店だけでも1万軒とか、古本屋さんも1千軒とかきっとあるんですけど――そういうもの全部をとにかく潰れたら嫌だっていう気持ちでやっているので。大手チェーンみたいなところが実際に今名を連ねているわけではないんですが、地方で2、3店舗やっている新刊書店のチェーンさんとかも入っています。
速水 健朗:
本屋さんの側からも声って届いてますか、内沼さんのところに。
内沼 晋太郎:
すごく届いてます。みなさんからいろんな形でお礼を言っていただいたりするとか、大変だからどうにかしたいとかいろんな声が届いていて、希望を大きくクラウドファンディングをやろうとすると、こんな大変なんだなっていう感じなんですけど。
事務局のほうでいろんな声を集めては、対応していったりしているような感じですかね。
速水 健朗:
なるほど分かりました。内沼さんどうもありがとうございます。
内沼 晋太郎:
いえいえ、ありがとうございます。
速水 健朗:
また番組にもぜひ今後来てください、また再び。よろしくお願いします。バリューブックス社外取締役・沼ブックス代表、そして本屋 B&B 共同経営者である内沼晋太郎さんにお話を伺いました。
charlie、繋がってますかね。
charlie:
はいはい聞こえてますかね。さっきもね、キャッシュ積んでる会社は強いって話があったんですけど、やっぱりデービット・アトキンソンさんなんかに言わせると日本の中小企業の占める割合が 90% を超えていて、雇用者の7割はそういうところに勤めているっていう話があるんですけど、そういうものの代表はいわゆる自営とか、ほんとに小さな小売り、つまり僕たちのところに商品を届けてくれるお店なんですよね。
そういう人たちの存在っていうのは、それこそさっきエッセンシャルワークって話がありましたけれども、本当に今痛感していると。そういうなかで、一人ひとりが何かできることがないかみたいなね、大事な活動だと思いますし、書店だけじゃなくて「うちもうちも」と思っているところも多いでしょうから、新しいクラウドファンディングみたいな手段をもっと活用されていくといいなというふうに思いますね。
速水 健朗:
はい。ある種の本屋さんも映画館もライブハウスもそうですけど、僕らは――文化系ラジオって名乗っていて、僕らもまさに本を書いたりっていう意味ではそこの参加者としてね――自分たちの業界の声をあげるみたいなことって、してこなかった部分と今できる部分みたいなのが見えてきている部分、業界として何ができるか。
例えば本で、今言ったような話もありますけど、例えばオンラインで買うこともできるんですけど、Amazon のなかでは在庫を他のものに優先するものになったんで、後回しにされている部分とがあって、自分たちの仕事って何なんだろうっていうのは出版社としても思うところ、メディアとしても思うところってありますよね、野村さん。
野村 高文:
そうですね。今 charlie さんが仰ったんですけど、多様な中小の本屋さんっていうのが世の中にはあって、特に自分がこの本屋さんは応援したいな、潰れてほしくないなと思ったらそこにお金を落としていかないと、お金をお支払いしないと、そこってのは存続できないなと思うんですね。
今、飲食店でも、大事にしたい飲食店には先にお金を払っておくみたいな動きもあったりするんですけど、そういったものも本屋さんとか個別のお店でできるといいなって思います。
速水 健朗:
コミュニティーとかね、イベントをする本屋、増えてきているなかで、今後コミュニティーのベースになってきて、ただ本を売るだけじゃないよっていうようなものが出てきて、その矢先という部分もあり、コミュニティーはこれをオンラインに移せるかみたいな議論もあるんですが。
メッセージ1個いこうかな。タカハシトシアキさん、千葉市の男性の方。「自分はコロナで外に出られないのでオンライン飲み会やオンライン読書会に参加しています。楽しいは楽しいんですが自分、中学時代、具体的には 2003 年ぐらいの頃のインターネットを思い出しました。あの頃はインターネット人口自体が少なかったので2ちゃんねるなどの掲示板などに MSN メッセンジャーのアカウントを貼って、そこで知り合いとグループチャットをしたり通話したりすることが流行っていた気がします。ただやっぱりフィジカルが普通の飲み会とかと全然違ってしまうので違和感があるというか何というか。本当に気楽だし楽しいし、いいことづくめではあるのですが、従来の会って話す形のコミュニケーションと全然違う方向性で求められている気がして、これはこれで大変だな」というメッセージありましたけど。
オンライン飲み会疲れって出てきた瞬間から発生してる気がするし、アル中みたいなのも発生しているし。
野村 高文:
最初は物珍しいから楽しいんですけど、だんだんとやってるうちに「あれ?」っていうふうに違和感を感じるようになりますよね。
速水 健朗:
はい。オンラインのコミュニティーっていろんなとこで今報道されていますが、その次みたいなことをそろそろ考えなきゃいけない部分と、そこで大事にするコミュニティーみたいなものの本質を考え直す部分もあるのかなって気はしますが。
ここでちょっと話を変えてまた違うゲストに繋げたいと思います。社会学者で國學院大学教授、水無田気流さんに電話を繋ぎたいと思いますが、水無田さん。
水無田 気流:
こんばんは。
速水 健朗:
こんばんは、ご無沙汰してます、速水です。
水無田 気流:
ご無沙汰してます、速水さーん。
速水 健朗:
水無田さんは Life にレギュラーでね、よく来てもらっていたりしてましたが、ちょっとあいてしまいましたという感じですが。
水無田 気流:
そうですね。なんか懐かしいですねっていうか、一番最初に呼んでいただいたときが、東日本大震災の停電のさなかだったじゃないですか。
速水 健朗:
そうだったかもしれない。
水無田 気流:
時間通り打ち合わせの時間ピッタリに行ったんですよ。そしたら、 TBS のラジオ放送するフロア、人っ子一人いなくて、電気も省電力でついてなくて。
速水 健朗:
今日、休みなんじゃないかと思っちゃいますよね。
水無田 気流:
そう。そしたら奥のほうからカシャンカシャンカシャンって音がするから何かと思ったら、charlie の付けてる貴金属だったんですね。
速水 健朗:
あー、ジャラジャラ付けてた。
水無田 気流:
なんか、『クリスマス・キャロル』のスクルージが過去の亡霊に登場するシーンを思い出したんですけど。何かと思ったら、「あ、どうも」と言われて。
速水 健朗:
『ターミネーター』とかね。それはちょっとしたホラー体験でしたね。
水無田 気流:
そうですね。
速水 健朗:
charlie も電話先にいますけれどもね。
charlie:
〔小声で〕その節は。
水無田 気流:
どうも charlie さん、こんばんは。
46:26
速水 健朗:
その節はとボソボソ……。水無田さんにね、お話伺いたいことたくさんあるんですが、まずは働きかたかな。Twitter でも触れられてましたけど、「家にいる=休み」とかね、「職場にいる=仕事」とか、単純に区切れるわけではないっていうことを発していましたが。
つまり、水無田さん、子育てをしながら働く、家で働くって意味では、ベテランの領域というか経験者なわけですけど、みんなが今始めているリモートワークみたいなもの、いろんなトラブルとか起こっているでしょうねっていうのって、どう見てますか。
水無田 気流:
ヤケクソのようなツイートをなぜか長谷川さんが気にしていただいたあれですね。私みたいな物書き兼大学教員って、まあだいたい――これに集っている人たち分かると思うんですけども――オンとオフの差がないんですよね。もともとね、寝てても夢のなかに原稿が出てきたりするぐらいですから。
速水 健朗:
24 時間仕事といえば仕事です。遊んでいるといえば遊んでるでしょっていうのもある。
水無田 気流:
仕事と遊びの区別がもともとない罰当たり者ですから。私の本のなかにも書きましたけど、特に女性の場合は家事・育児・介護等々の無償労働時間が男性の5倍ぐらいあるっていう話を書きましたけれども、なおかつ有償労働つまり外で働く女性も増えてますよね。
だから有償労働・無償労働合わせると日本人の既婚で子どもがいて、フルタイムないしはそれに準ずる形で働いてる女性は先進国一の働きバチ。
その状況で学校が休校になったり、高齢者介護施設のデイサービスがお休みなっちゃったりとか、育児・介護抱えつつーの、家にそもそも他の家族がいーのしながら、在宅ワークしてる女の人なんかだと、ますますオーバーワークになっているのではないかと――。
速水 健朗:
めちゃめちゃマルチタスクが当たり前の人たち――。
水無田 気流:
――になってるんじゃないのかなあという予感がします。
速水 健朗:
それはもともと、水無田さんもめちゃめちゃマルチタスクでこなしてきたわけですよね。
水無田 気流:
あのというかですね、日本の女性の家事労働関連時間って結局――品田知美先生っていう私の敬愛する先生が調査されて書かれてるんですけれども――家電製品の進化とかではないんですよね。よく3食昼寝付きで女性の家事労働時間短縮したなんて言われてるんですけど――。
速水 健朗:
家電が人を楽にしてくれると思いきやってことですね。
水無田 気流:
違うんですね。既製服が増えたのがまず一つ大きいんですけど、一番家事時間を削減するのに効果があったのは、結局「家族の数が減る」だったんですよ。
速水 健朗:
それ、解決なんですかねっていう。
水無田 気流:
子どもを産まないか産んでも一人とか、少なく産むとか、あと夫が先にお亡くなりになるとかになると、格段に女性の家事時間が減るんですよ。
速水 健朗:
抜本的なソリューションですね、それ。
水無田 気流:
そう。つまりどうしてかっていうと、「家族が家にいる時間=女性のケア労働時間」なんですよね。
速水 健朗:
積み重なっていくんだ、一人増えると。
水無田 気流:
そう。だから家に家族がいながら家事・育児している。なおかつ家にいながら仕事していながら、周囲のケアワークとしての気配を感じ取りながら、単純に子どもにご飯作るとかね、それだけじゃなくって、周りの家族が快適に過ごせるように常に気働きしているという状態の女性増えてるんじゃないのかなと推察します。このへんは調査してみないと分かんないですけれども。
速水 健朗:
これは今の状況でまさに増えているというか、働きかたでいうと今おそらく家で働いている人たちが増えているなかで、そもそもちょっと大きい話をすると、もともと狩猟採集時代とかはね、全部みんなやってたわけですよ。
魚も取るし、野菜も作るし――狩猟採集だと野菜は作んないのか。生活のすべてを自分でやらないと誰かがやってくれない、交換とかないから。どんどんそれを専業化していって交換できるようになって、通貨とかできて、都市ができてっていう。どんどん分業してったから、僕らは今の都市文明とかがあると思ってたんだけど、そこのなかで、日本の女性だけはそうではなく、あれこれ全部やっていたみたいなところがあったわけですよね。
水無田 気流:
それはちょっといろいろありまして、まず日本って 1950 年ぐらいまで全就業者の半分ぐらいは農林漁業従事者なんですよね。
速水 健朗:
なるほど、会社員っていなかったんだ、あんまり。
水無田 気流:
あんまりいなかったんですよね。
速水 健朗:
分業じゃなかったんだ。
水無田 気流:
あとは自営業者さんとか家業従事者さんとか多かったんで、女性も生産労働従事者だったんですよ。だってほら、既婚女性のデフォは農家のお嫁さんだったりしたんで、あるいは家のお商売とかやってたんで。
それをやりつつ家事・育児っていってもですね、例えば戦後間もない頃の農家の女性って、農作業が忙しくて家事はあまり農繁期はやってないんですよね。米はなくなったら炊くだけ、洗濯は毎日しないとか、育児は手のあいた農作業を引退したお年寄りがするとか。
みんなで働いてみんなでなんとなく育ってきたんですよね。プラス、農業共同体的な共同体のなかで暮らしてますから、よそ者に対して――一番最初この番組もよそ者意識とか出てきましたけれども――まさによそ者を排除することによって農村共同体の集団の中体、絆が保たれてきたというか。あと危険、リスクから守ってきたってあるんですよね。
だから身内の恥はよそに見せないって言いますよね。それがすごく顕著だったんですよね。まあだいたい戦後間もない 50 年代前半ぐらいまではそういう社会だったのが一気に高度成長期で工業化しちゃって、先ほど速水さんがおっしゃったような、工業社会に即応した家族形態になり生活スタイルになりってことになってったわけです。
で、核家族化して家事・育児を一手に引き受ける専業主婦の妻と夫サラリーマン世帯が、まあパッケージングされてたわけですね。
速水 健朗:
そこらへんから分業が進んだっていうことか、解釈としては。家族と働き方の戦後史みたいな話でいうと、ちょっと人を増やしちゃってね、ちょっと僕これ番組も慣れてきたから、もう一人電話繋いじゃおうかと思うんですけどいいですか?
ここから夏来先輩繋ぎたいと思います。どうでしょう、永田さん?
永田 夏来:
もしもし、こんばんは。
速水 健朗:
永田夏来さんに繋がりました。
永田 夏来:
いやー、野村さん、久しぶりです。
速水 健朗:
兵庫教育大学大学院准教授です。
永田 夏来:
はいはーい、永田夏来です。よろしくお願いします。私、水無田さん、初めましてなんですよ、たぶん。違った? 会ったことあったっけ。
速水 健朗:
水無田さん? 水無田さん、ちょっと今落ちたかな。いや、すごく意外ですね。
永田 夏来:
いや分かんない。今ね、顔からね、「いや、そんなことない。会ったことがあるよ。」みたいなことを言ってるような気がした。
速水 健朗:
ちょっとそれはじゃあ、あとで水無田さん、ちょっとクロストークするとして――。
永田 夏来:
――ようやく突っ込んだ話ができるから、超嬉しいと思って。あと、斉藤哲也さんがせっかくいるのに全然しゃべんないから寂しいんです。
斉藤 哲也:
なかなかアイコンタクトが難しくて。
速水 健朗:
僕もね、下向いて仕事しているとね。
永田 夏来:
入り込めないんでしょ?
速水 健朗:
うん。ほら、僕らいつも近接性で番組やっているから、今僕ら羽もがれているのね。
永田 夏来:
だよね、羽もがれてるよね。だって、斉藤さん、いつもスタジオにいると「いくぞ」って体の動きで、「あ、いくんだな」っていう意気が分かるんだけれども。
速水 健朗:
斉藤さん、3時半ぐらいから乗っかってくるので、そこまではわりとね――永田さんのパートなんですよ。
永田 夏来:
ああ、そうでした、ごめんなさい。
速水 健朗:
永田さん、いっぱい話聞きたいことがあるから、何だろう、どっからいく?
永田 夏来:
なんか、charlie が挙手している気がする。
速水 健朗:
charlie。
永田 夏来:
あ、違った。違うって。ごめんなさい。
速水 健朗:
まず何、水無田さん、繋ぎ直すので、先にちょっとなんかね、ネットで今の永田さん見てると結構大変だなって感じで。オンライン授業ですか、準備ですか?
永田 夏来:
超大変。
速水 健朗:
大変だよね。
永田 夏来:
うちは超大変。
速水 健朗:
何が大変ですか?
永田 夏来:
いちばん大変なのは、うちの学校って教員養成の大学だから教育実習に行かないといけないのよ。それはオンラインはできないからね。で、結局リスケ〔=リスケジュール〕しているわけですよ、今。リスケに次ぐリスケ。
で、あともう一つが、授業を教える授業ね、小学校とか中学校の。それがオンラインだとかなり厳しいから、人が集まって――多分介護とかもそうだと思うけれども、保育もそうだよね。あと教育っていうのってやっぱりどうしたってマンツーマンでリアルな接触を伴わないとできない仕事だから、それの練習もやっぱり大学で教えていることなわけよ。
「それどうすんの?」はもうみんなもう頭を抱えてとにかくスケジュールを組んで、あの安全確保してっていうので、飛び回ってる感じだね。
速水 健朗:
charlie もやっぱりオンライン授業でやってるわけ?
charlie:
僕に関してはオンライン授業というか、ラジオを配信しているだけのような気もするんですけど。
自分に関してはいろいろ工夫ができるんですけど、さっきの話でいうと、やっぱりオンラインにできないものってたくさんありますよね。というなかで、永田先生もそうだと思うけど、社会学者のフィールドに調査に行かなきゃいけないんですよ。これを教えるってのはね、とにかく何してもできないので、人に会えないし。
オンラインにできるところをすごく高く工夫しましたって話はいくらできるんだけど、どうやってもやりようないところの話、どうしてますかって話はすごい置き去りにされている感じしますよね。
速水 健朗:
水無田さん、電話復活しましたか?
水無田 気流:
はーい。
速水 健朗:
オンラインで教えられないものだってあるんだよって話になってるんですけど、水無田さんはどうですか。大学の先生としてのお仕事大変ですか、今。
水無田 気流:
オンライン授業の準備めっちゃやってますね。内容がきちんと伝わるかどうか、対面の授業での周りの空気感みたいなものもつかめないってのもあるし、身体ってなかなかに替えの効かないメディアだったんだなあって、改めて思うことですね。
速水 健朗:
身体が替えの効かないメディアだっていう。何を言ってるんだっていう気もしますけれども、それを改めてっていうことね。
水無田 気流:
改めてですね。
速水 健朗:
ちょっと水無田さんと永田さんで、ここでクロストークできるのかな。試す? 永田さん?
永田 夏来:
こんな生放送で試していいんですか。
速水 健朗:
やりますよ。オンライン授業に比べると楽勝でしょ。
永田 夏来:
水無田さんの話を聞いていて思ったのが、よく近代社会って中間集団がなくなったって言われてるよね。個人と国がダイレクトに繋がるようになっちゃったよって。その間にあった地域とかがなくなっちゃったよねっていう話があって。
なんだけど家族とか、あとはイベントとか、あとは飲み屋さんとか、そういうところがかろうじて中間集団として機能を維持されてたと思うんだけど、そこが〔コロナで〕バサッとやられちゃってて、でも家族だけなんか残ってていう、この非対称性みたいなのってどう見るのかなっていうのをね、聞いてみたかったんですよ。ごめんなさい、無茶振りかもしれないけれど。
水無田 気流:
いえいえ。さっき話してた村落共同体みたいな中間集団っていうのは、やっぱりコミットメントがとても強い形での生存も預けるような意味での中間集団ではあったんですよね。
生活の安寧とか、まあ自分の食糧から何から全部、自らそこに属していることによって、アイデンティティーも確保されていたりとかも――前近代的な意味でなのでちょっと今とは違うわけですけど――そこから工業化になって個人はそういったものから自由になることを志向してきたわけじゃないですか。近代社会って、それによってある意味では伝統的な共同体のしがらみから解放されていくっていう方向性もあったけれども、一方でそれだけだと依る手がなくなってしまうので、選択縁として中間集団、選んで所属していきましょうねってことをやったわけですけど。
生存を確保してくれるレベルでの強い共同体、自分がメンバーとして所属して自分が承認されてかつ生存を確保してくれるような共同体って結局――古くからある家族社会学の議論ですけど――結局家族ぐらいしかないというか、家族に対する負担や期待がすごく大きすぎるっていうのか、現に今だって例えば両親2人、コロナで倒れてしまったら子どもさんどうするのかとかね。
永田 夏来:
大変だよね、あれね。
水無田 気流:
今も夫と私で子ども1人なので、すごい戦々恐々としています。2人倒れたらこれどうすんのって気が。その意味で――。
永田 夏来:
そのときに家族のなかにテレワークっていう形でパブリックが介入してきているわけだよね。仕事が入ってきているわけじゃないですか。
そのときに、結局やっぱり女性のほうがプライベートな部分の家事・育児っていうのを、同じようにテレワークで家にいて仕事しているにも関わらず、やっぱり女性のほうが家事やるのねっていうのが、私結構ガッカリなんですよね。
永田 夏来:
そうですよね、周囲見てるとそうですね。ただ見ているうちに夫も家にいる時間が増えて、なんとなく家事をすり合わせるように、先ほど身体ってすごいメディアだなって言ったと思うんですけど、夫と身体を近くにずっといるという機会をここまで長期間に渡って持つってなかなかなかった女の人って多いみたいで。
旦那さんの話を聞くとね、私の周辺の話ですけど、二極化しているんですよ。家にいても何もしないで、自分は仕事しているんだからって、テレワーク、オーバーワークになっちゃう女性と、家にいるからといそいそ家事をなんとなく見て、妻に倣ってやるようになっちゃってる夫さんと、二極化ですね。
元からあった家事、やれるんだったらやりたいなと思っていた思考の男性はたぶん、少しずつ見ているうちに――やっぱり家事ってどっちが覇権を握るかで、日常的な空間の支配とかって決まってくるじゃないですか。その空間の支配のなかに入っちゃうと、自分もヘゲモニーの一端を担うかなって、関わって来ようとするタイプの男性だと、家事のシェアリングがうまくいくものになってきている人も、なかにはいるみたいですね。
永田 夏来:
なるほどなー。charlie とかめっちゃ家事とかやってるよね。
charlie:
僕は基本的にすべての家事を一人でできるというか、やってしまう人間なので。ただ、今の話でひとつ重要だなあと思うのが、住居、住宅環境の話なんですね。つまりこれ昔、上野千鶴子さんがおっしゃってましたけれども、日本の住宅って「家族マイナス1」の部屋しか用意してないと。
つまり夫婦が同室で、子ども部屋っていう構成でやってたって話があったじゃないですか。で、空間のヘゲモニーが混ざってきたことによって家事できるようになるパターンもあるけれども、混ざってきたことによっていかにしてプライバシーを確保するかみたいな話も一向にあって。
今 Amazon で子ども用のテントが売れてるんですって、部屋に置く。子どものプライバシー空間を確保してあげないと、むしろ彼らこそ息詰まるんじゃないの、ずっとお父さんお母さん仕事してるしみたいな。そういう話もあったりするから、実は日本の住環境そのものがそもそもリモートワークに対応してないよねって話が別途あるんですよね。
速水 健朗:
『パラサイト』だ。
水無田 気流:
それ、あります。charlie さんの今の話聞いてすごい思ったのが、一昨年去年と私チームで家庭研究をやってまして、東京とロンドンの家庭環境の空間の配置の仕方とか、家事メディアの日英比較ってやってまして。
イギリス組が帰ってきたときに日本の調査と――写真いっぱいリビングとか台所の写真を撮るんですけど――比較してみたときに、日本のリビングって子どもの物がやたら置いてあるんですね。対象者は小学生のお子さんがいる家庭ばかりなんですけど。
子どものお絵かきとか子どもの工作とか――「子どもアート」って名付けましたけども――子どもアートだらけなんですけど。これって普段大人たちが家にいないから、子どもとお母さんがヘゲモニーな空間になっちゃってんのかなって。
イギリスのロンドンの都市部と郊外地域と調べてきて写真見せてもらったんですけど、これがものの見事にリビングは大人の空間なんですよ。夫婦なんです。夫と妻が基本単位で、もちろん子ども部屋にはたくさん子どものおもちゃとか置いてあるんですけど、リビングは夫と妻が作るヘゲモニー空間なんですね。だから、貧困層と言われる家でも、狭くてもとにかくリビングには必ず父親と母親が中心の座を占める。それから大人の社交場にもなる。
そういうふうに大人の空間が最初からある程度あったならば、リモートワークもできるかもしれないんだけど、日本のリモートワークってオンライン会議だからって子どものごちゃごちゃした、下手するとおもちゃとか、どけるところから始めなくいけなっちゃうのかなって。
それは相当に仕事する意味ではストレスフルで、やっぱり住環境が貧困すぎて、かつ子ども中心的すぎて、普段大人の空間がないことが前提になってるので、イコール仕事空間ではないんですよね。
速水 健朗:
なるほど、はい。今 10 分弱ぐらいね、電話口だけで番組が成立しているという、すごい奇跡的な状況で続いているわけなんですけど、ちょっと一回、どれだけ音質的に聞いてるかたたちのところに届いているのかちょっと不安なので、一旦ちょっと引き取ってメッセージを1個読みたいと思います。
住宅の話とか子どもの話とか、公共みたいな話だといくつか来ているので、こちらは先ほど二極化している――水無田さんが夫婦で夫の仕事・役割みたいなことを言ってましたが――そっち関連かな。
マキノハラさん・40 代・男性・東京都のかた。「私にとってコロナ下の新日常ですが、ズバリ離婚です。この4月に妻と離婚し父子家庭になりました。一部メディアで『コロナ離婚』、話題になっていましたが、それとは関係なく娘が中学生になったら離婚するのは決まっていました。コロナの影響で離婚を延期するのかと勝手に思っていましたが、妻がスパッと離婚届を提出しました。あっさりしたもんです。私の勤める会社は社員 20 人程度の小さな IT 企業ですが、今のところコロナ不況による直接の影響は受けていません。現在平日は毎日自宅でテレワークしています。娘は4月から中学生になりましたが、入学式以来ずっと休校状態で一日中親子2人、父と娘2人で過ごしています。家事は当然ながら自分が担います。もともと料理は得意でしたのでそこそこ手抜きしつつなんとかうまくやっていますし、毎日娘と二人食卓を挟んで好きなユーチューバーのことや、LINE での友だちの会話のことも話してくれます。なんだか不思議な感じ。テレワーク前は帰宅は毎日夜の 10時ぐらいだったので、平日は娘と一緒に夕食をとることはできませんでした。もしテレワークのない状態で単身、親になっていたら生活の変化に対応しきれずもっと慌ただしかったかもしれません」というね。
仕事、いわゆるお父さん、仕事が 10 時に帰るのでは娘を育てるのはできなかったんだよ、むしろテレワークでなんとかなっていますよ、というマキノハラさんからのメッセージいただきました。
非常に今、社会学者3人で電話口で非常に番組が成立してしまっている状況に、テレワークと子育てみたいなものが結びつきなら、離婚という要素が入ったもの。こちらについては、永田さん、コメントもらおうかな。
永田 夏来:
日本の家事分担とか家族のことを考えるときに、いくつか論点があるんだけど、一つは長時間労働なんですよね。さっき水無田さんがおっしゃってくださってたみたいな、母親の労働時間、家事の時間がすごく長くて、先進国一の働きバチだっていう話って、夫が長時間労働やってて家に帰ってこれないというようなこととか、自身の労働時間が長いってこととのセットなわけなんですよ。
それがせめて通勤の時間が削れたっていうだけでも、家のなかでの過ごしかたっていうのが変わっていくっていうようなことは、テレワークの希望の一つとしては言えるのかなと思います。
速水 健朗:
そして子どものスペースみたいなメッセージも来ています。
セラさん、女性・専業主婦・都内在住のかた。「私の日常。子どもが2歳代に戻ったような日々です。あまりに子どもがないがしろにされてる状況に怒っています。子どもたちは2月末から我慢しています。2月 91 日の気分――2月が続いているってことですね――年度も終わらず新年度も始まらず、毎日会っていた友だちに会うこともままならない 。しかも何ですか、あの公園遊び叩き。屋外での行動にはそこまで言われなきゃいけないリスクがあるなら電車走らせてるのなんて殺人行為に等しいとでも言いたいのか、という怒ってますが。犬に散歩が必須なように子どもには運動が必須です。広い庭などない日本の庶民は公園にでも行くしかありません。不要不急の外出ではないのです。必要な外出です。しかも屋外。先週末がピークで、公園遊び叩き、子どもがスケープゴートにされてる感がひどいです。公園封鎖やら遊具禁止やら。」というメッセージもいただいています。
公園でどんどん遊べなくなっているような状況で、周りからの相互監視というか通報なんかが来ているようなところもあるし、そもそも子どもにも遊具使うの本当に危険であればもうちょっと遊具の使いかた、例えば遊具を使ったあとにちゃんと手を洗いましょうっていう、むしろ禁止する前に周知させるべきではって、意見としてもらっています。
家が狭い日本の問題と公園で遊ばせる問題みたいなところなのかなと思いますが、水無田さん繋がってます?
水無田 気流:
はーい。繋がってます。
速水 健朗:
こういう家の狭さと外にアウトソーシングされている公園みたいなところも、今ちょっと封鎖されたりしていますよねっていう。
水無田 気流:
そういったこと全般に、もっと言うと自粛警察みたいな現象は出てきて、そもそもがもともとコミュニティーのなかで、先ほど中間集団が解体してきているという話をしたと思うけど、コミュニティーがもともと、所属先みたいなものに対する確固たる絆みたいなものがなくなってきていて。
極端な話、家族のなかで消費生活だけしていれば別にかつての共同体みたいな感じでコミュニティーにガッツリ関わってなくても生きていけたので、顔が見えない関係のなかで、自粛の温度差というか、意識感もすごくコミュニティーが解体しているところほど露骨に出やすいのかなって。
子どもがいる世帯とかママ友集団とかの中間集団がかろうじてゆるくあるところの間だと、「まあしょうがないよね。少しぐらい時間を置いて、三密にならないように遊ぼうね」と思えるけれども、例えば子どもさんがいなかったりだとか、もともと東京なんて「子どもの声はクレームに含みません」という条例を作るぐらい子どもの声に対するクレーム多いところなんで。より普段から目障りだっていうような対象が、このコロナ下で不安になっているなかで、より増幅して出てきちゃってるのかなという気がしなくもないですね。
速水 健朗:
なるほど。結局共同体の子どもの問題に関しても、家族の問題に関しても今回出てきている部分も、非常に多いな。
水無田さん、どうもありがとうございました。また、ぜひちょっとね、状況は分からないですけど、スタジオにも、charlie が暗いなか歩いてるかもしれないですけど、またスタジオ来てください、ぜひ。今日はありがとうございました。
水無田 気流:
どうもありがとうございました。
速水 健朗:
社会学者で國學院大學教授、水無田気流さん、電話を繋ぎました。
そしてここからテーマを切り替えて、charlie、再び永田さん、ちょっと話を、テーマを変えちゃって大丈夫ですか、ここは。
charlie:
今の話、少し引き止めたいんですけれども。メールで Life にも出てくれていた、ライターの嘉島唯さんからメールいただいています。
「ソーシャル・ディスタンスっていう言葉を聞いたとき、最初に思い浮かんだのが、2011 年の『思想地図β 2』に巻頭に寄せられた、東浩紀さんの『震災で僕たちはバラバラになってしまった』という文章です。」という話があって、あの時も絆とか言ってたんだけど実はバラバラになったじゃんって話があったんですが、今回ほどコロナに関しては絆すらなくて、マスクの奪い合いみたいなことになっていて。
いよいよこの9年ぐらいの間にも絆とか言う余裕もなくなったのかな。中間集団の崩壊っていう話もありましたけれども。もはや隣の奴は「朝からマスク買いに並べる高齢者が。許せん。」みたいな。「子どもが公園で遊んでる。許せん。」「パチンコに並んでる。許せん。」みたいな感じで、どうもギスギスするほうにいっちゃいますよね。
速水 健朗:
災害ユートピアが発生しなかったっていうのが、かつての震災との違いだったりもするかなっていう気がしますが。
斉藤 哲也:
僕もちょっといいですか。
速水 健朗:
斉藤さん。
斉藤 哲也:
僕も災害ユートピア――災害のときにみんな精神的高揚して助け合うっていうのが災害ユートピアじゃないですか。別にこれは日本だけじゃなくて、海外にもそういうのが見られるっていう本も出ていたんですけど、今回たしかに速水さん言うように、災害ユートピア的なものが今立ち上がってるようには感じられないと思うんですよね。
なんでかなと思ったときに、今までの災害ユートピアって例えば避難所に人が集まるとか、人が集まることで助け合うっていうことが一つの型になってるような気がするんですよ。だけど今それが集まることが難しくなっている状況だと、どうやって助け合ったらいいかっていうことがうまく想像できないんじゃないかなっていう気がするんですね。
速水 健朗:
まさに距離って、例えばなんか目の前の人が自転車で――僕今日あったんですけど、散歩中に――風で倒されて高齢者が転んだっていったときに、近寄って行って「大丈夫ですか」って言って手も差し伸べられない。触れないし、せいぜい自転車を持ち上げてあげるだけしかできないっていったときに、何かがやっぱり発動しないんですよねっていうようなことのレベルだし、複数の人数が集まることっていうのはダメな状況で、何も立ち上がらない状況みたいなものと、中で何かをしなきゃいけないっていうことだよね。
その次にしたい話っていうのは、エンタメの話とかしたい。
永田 夏来:
あ、エンタメの話ね。たぶんなんだけど、集まっていれば相手がどういうふうに困っているのかっていうのも分かるっていうところと、対面でみんなでいることによる高揚感みたいなのって、消費のほうに振るとエンターテイメントっていうことになるんだろうなとは思うんですよ。
消費のほうに振ると、急にみんなから「不要不急」のレッテルがすごく強く貼られるっていう。だから、みんなが人が集まって顔を見て、みんなで盛り上がったりとか、辛い気持ちを乗り越えたりっていうことって人を支えてくれるにも関わらず、それが消費に結び付いたら急に「不要不急」になっちゃうのって、なんか不思議だなって思いますよね。「自粛」っていったらね、まずライブハウスだったもんね。
速水 健朗:
そこでね、永田さんといえばじゃないですか、恋愛だって別に距離――近接性必要ないよっていう人じゃないですか。
永田 夏来:
必要ないですね。
速水 健朗:
ゲームって今もう完全にオンラインでできることもあるし。みんな時間がある人たちが今夢中になってるもの結構ありますよね。今、夏来先輩は何にはまってるんですっけ?
永田 夏来:
「ぶつ森」です、「あつ森」です。
速水 健朗:
あつ森(笑)。略さないで、最初ぐらい正式名称で。
永田 夏来:
「どうぶつの森」です。
速水 健朗:
〔Nintendo〕 Switch ですか。
永田 夏来:
うん、Switch でやってますね。
速水 健朗:
なんかもうあれのニュースばっかしになっているっていうか。例えば、美術館がこれから再開するんじゃないかみたいな話で、美術館という話を調べたら、Google ニュース検索をするとですね、メトロポリタン美術館の話しか出てこないんですよ。何かと思ったら「あつ森」の話なんですね。
永田 夏来:
そうなんですよね。メトロポリタン美術館が――どうぶつの森のゲームのなかでポスターを自分で作って飾ったりとかいう機能が付いてて。それで自分で作るんであるならば、メトロポリタン・ミュージアムの収蔵の画像のデータを使って、作品、ゲームのなかでポスターを作って貼ってくださいねっていうことで、データを提供してるんですよね。それが大変みなさん喜んでいる。
なんでかって言ったら――ちょっとごめんなさい、これゲームの話なんだけれども――ゲームのなかに美術館があるんですよ。博物館と美術館があって、そういう作品の世界のなかに不要不急ってみんなが思っているアートの要素っていうのが入っているってことが、どうぶつの森にみんなが安らぐ一つの重要な要素になっているんだろうなとは思いますね。
速水 健朗:
そこではめちゃめちゃ三密が発生してるんですか、どうぶつの森のなかでは。
永田 夏来:
発生させようと思えばさせられる感じです。
速水 健朗:
僕昔のしかやったことがないから、今みんな何にはまっているのかをもう一度ちょと知りたいなと思って、どうぶつの森の。
永田 夏来:
どうぶつの森の何にはまっているのかってこと? 一から説明すると、無人島に移住するゲームなんですよ。そのなかで、島を開発していって、居心地よく整えたりとか、友だちを呼んできて一緒に遊んだりとかいうようなことができるっていうゲームですね、基本的には。
で、呼んでくる友だちっていうのは、ゲームのなかに準備されてるキャラクターのほかに、実際にゲームをやってるリアルな人も含まれていて、インターネットを介してそういう人を島に呼ぶっていうことができますよっていう、そういうゲームです。
速水 健朗:
任天堂は企業哲学の話がさっきど出てきましたけれども。
斉藤 哲也:
このあいだニュースで見たんですけれども、香港だとデモが野外ではできなくなっちゃってるから、どうぶつの森のなかで反政府運動みたいなのを展開しているっていうニュースがあって。それは冗談じゃなくて結構な規模でそこで集まってるってことなんですか、あれは。
永田 夏来:
実際に同時に集まれる人数に上限があるから、たぶん 10 人も集まれないと思いますよ。
なんでどうぶつの森って言うかっていうと、キャラクター化された動物がたくさん出てきて、それが基本友だちになるんですよ。なんだけど、それだけじゃなくて、実際のプレイヤーも行き来できるっいうところが名前の由来なんだけどね。
速水 健朗:
なるほどね。サカナクションの「新宝島」を完全再現するみたいなとか、ここで何が行われているの、メトロポリタンとか。やっていない人たちにとって不思議な空間なので。そっかそっか、そういうことなのか。中でフェスが行われたりするわけではないんですね。
永田 夏来:
私は自分の島をいろんな形で開発して道具を揃えたりとかできるから、私は自分の島でロックフェスができるような仕様にしたいなと思って、コツコツ道具を買い集めているところです。
速水 健朗:
なるほど、道具も必要なんですね。
野村 高文:
1個聞いてもいいですか。
速水 健朗:
野村さんどうぞ。
野村 高文:
永田さん、お久しぶりです。
永田 夏来:
お久しぶりです。
野村 高文:
1個せっかくなのでお便りをここで読もうかなと思うんですけど、アヤコサイコさん、漫画家のかたなんですけど、「最近の一番の悩みは次回作の構想を練ったりネームを描いたりしてるときに、通勤ラッシュが出てきたり、お店が普通に営業していたり、カップルが普通に会ったり、濃厚接触したりしてるこの状況を読んで、いつまで読者がリアリティーを感じてもらえるのだろうかということです。今は気にせずに描いていますが、この状態が半年1年それ以上続くとしたら、読者は私の世界を異世界ファンタジーとして読むようになるのだろうか。それは私が描きたい、読んでもらいたい作品と言えるんだろうかと考えてしまいます。」という、結構コンテンツの中身が三密を避けるっていう状況によって変化するんじゃないかっていうお便りなんですけど、このへんっていかがお考えですか。
永田 夏来:
私ね、その話で一番始めに想起したのは喫煙と暴力ですね。喫煙は昔の映画ではタバコ吸うのなんて当たり前だったけれども、今では時代考証的にはタバコ吸うのが当たり前の状況であっても時代に合わない。今の現代の感覚に合わないからっていうことでタバコ吸わないようにしていたりとか。あと暴力の表現なんかも、ちょっと前だったら受け入れられるような表現であっても、現在だったらちょっとキツいっていうことでマイルドにしたりというようなことをしてますよね。
だから、時代に合わせて表現が変わっていくのはあり得ると思うんですけれども、たださっきの速水さんが言ってくれたように、三密って親しさの表れだったりするでしょ。
野村 高文:
そうですね。
永田 夏来:
だからラブシーンとか愛情の表現みたいなものの位置付けがちょっと変わっていくのかなっていうところに私は興味があります。
野村 高文:
例えばどんな風に変わっていくんですかね。
永田 夏来:
どうなんだろう。リスクを冒してもあの人に触れたいみたいなもの、切なさを描くみたいなやつとか。HIV とかでそういうふうなモチーフって今までも使われていた気がするんだけれども、もっと身近な感じでお話のなかに組み込まれていくのかなっていうふうに思ったりしますね。
速水 健朗:
すいません。ちょっとね、今せっかくなんすけど時間がそろそろ来てしまった――。最後、charlie 一言。
charlie:
想像力の話でいうとね、一方でドラマっていうのは携帯のない時代の恋愛しかずっと描いてねえなあと思っていて。実は恋愛の定義じゃないことをみんなするようになっているのに、相変わらず〔ドラマの〕恋愛は携帯とかネットがなかった時代のことばっかり描くみたいな。初めてこう、ファンタジーのなかで恋愛を見たみたいな。でも自分はマッチングやってるみたいな。なんかそんな感じになっていく未来をちょっと想像しました。
永田 夏来:
うん、たしかに。
時間、なんですよね?
速水 健朗:
この時間で永田さんはあれですけど、最後に今の話、何かありますか。もしくは、他何かありますか、とっておきのネタ。
永田 夏来:
ああそうだ、ごめんなさい、とっておきの、これ言わないと怒られるやつがあって、本が出るんです。5月 15 日に集英社新書から宮台真司先生とかがりはるきさんっていうライターさんと共著で『音楽が聴けなくなる日』っていう本を出します。電気グルーヴの署名の話です、基本的には。こちらのほうよろしくお願いいたします。
速水 健朗:
こちらのほうもよろしくお願いします。
ということで、曲はこれ、斉藤さんがこの時間選んだ曲なんです。ちょっと曲振りお願いします。
斉藤 哲也:
はい。わりとベタな曲なんですけれども、今リモートワークじゃなくて、実際に体を動かさなきゃいけない人たち、そんなかでも医療関係者ってのはほんとに最前線で頑張ってくれてる方だと思うんですよね。で、他局のドラマですけれども、『コード・ブルー』っていう非常に有名なドラマがありまして、その歌詞を聞くとすごい今の状況を想起させるなと選びました。
速水 健朗:
ちょっとその前に、永田さんにありがとうございましたって言い忘れてた。
速水 健朗、斉藤 哲也、野村 高文:
ありがとうございました。
永田 夏来:
ありがとうございました。
速水 健朗:
そして斉藤さんから曲です。
斉藤 哲也:
はい。Mr.Children「HANABI」。
〔Part 3 はここまで〕