出演者
・鈴木 謙介(charlie、すずきけんすけ)
・速水 健朗(はやみず けんろう)
・野村 高文(のむら たかふみ)
・斉藤 哲也(さいとう てつや)
・柳瀬 博一(やなせ ひろいち)
・宇田川 元一(うだがわ もとかず)
・崔 真淑(さい ますみ)
・内沼 晋太郎(うちぬま しんたろう)
・水無田 気流(みなした きりう)
・永田 夏来(ながた なつき)
・神里 達博(かみさと たつひろ)
速水 健朗:
こんばんは、速水健朗です。ここからの時間は文化系トークラジオ Life、朝4時まで赤坂 TBS ラジオの第6スタジオから生放送でお送りします。
普段はこの番組には大勢でワイワイ議論をするのが信条というね、6人掛けのスタジオに、後ろなんかのベンチにも4人ぐらい入って 10 人ぐらいで押しかけて、ワイワイ議論をするという番組なんですが、今日はですね、そういう体制ではお送りしていません。
メインパーソナリティーの社会学者、鈴木謙介、メインパーソナリティーなわけですが、のちほど出てきますが電話での出演――関西在住ということでね――この緊急事態宣言が出ているなか、おうちにいるということで電話でのちほど繋ぎ、僕サブパーソナリティーの速水健朗がその代わりスタジオに来てお送りしています。
普段であれば「割り込んでなんぼ」っていう番組。大勢でわあわあ、なるべく僕も雰囲気を普段と変えないようにやるために――まあ無理なんですけど人数いないと、羽をもがれた状況ということで――リモート状態でいろんな人を割り込みながら議論をしていくことは変わらない。なるべく適応しながら大勢に繋いでいく、専門家に繋いでいく体制で、手元に僕、普段のみんなの出演者の代わりになるべく環境を近付けようと思ってラムネを置いてます、100 円ラムネ。飲みながらやりたいと思いますが。
今夜のテーマですが最初に発表します。『コロナ下の「新・日常」を生きる』というタイトルでお送りしていきます。みなさんね、日常少しずつ変わってる部分と大きく変わった部分、これあるんだと思うんですよね。例えば今日も大きいテーマになるリモート出勤。「働きかたは大きく変わった」「人に会えない」「飲みに行けない」みたいな大きな変化がある一方で、ちょっとずつ公園が使えなくなってるなあとか、よく行く飲食店がテイクアウトを始めて普段やってないなとか。大きな変化は、小さな変化、その積み重ねが非日常のなかにも日常ってありますよねっていうことなんですが。
僕もそれなりに変化してですね、自分のラジオ番組の出演者に新型コロナの感染者が出て、自分もちょっと一応大事を取って丸々3週間、自宅から隔離してる状況から出てきたんで、今日もスタジオそとに今斉藤哲也さんとか黒幕の長谷川さんと、人に会うのが3週間ぶりという状況で、ずいぶん世間が変わったように見えます。
例えば Uber Eats が増えたなあとか、視界に3人いるなとかね、あと子どもたち、キックボードとかブレイブボードに乗ってるなあとか。持て余してるので必要だと思いますが。
あと大人たちはみなランニングしてますよね。普段してませんよねみたいな。変化なんかに気付きながらも、みなさんちょっと狭い範囲での移動してるんだなぁとか。なるべく外に出ないなかで部屋にいるなかでちょっとずつ生活圏狭いなかで、立て直したりする生活見えてきてるかもしれません。
そんなオープニング、慣れないオープニングしてますけど、この曲、番組でオープニング曲考える、まあ光栄なので僕が普段担当してない charlie の担当のコーナーなどでね。この曲、オリンピックの延期が決まったのはまだひと月前なんですけど、ずいぶん昔のことだった、そして東京の街の魅力なんていうのもね、ちょっとこれ羽がもがれた状況なんですけど、一曲――ちょっと先にメールアドレス読まなきゃいけなかった。
リスナーのみなさんからも、新型コロナウイルスの流行により緊急事態が発令されるなか、社会・生活大きな影響及んでると思いますが、そのなかで感じたことを気付いたこと、メッセージとして募集いたします。Twitter もしくは番組のホームページよりメッセージお願いします。メールアドレス、life@tbs.co.jp です。
ということでね、東京のオリンピック延期、そして街の魅力がもがれたということで、東京の街のトラウマみたいものがあるとしたらこの曲に全部詰まってるかなと思います。なかなかラジオで聴く機会も減るでしょう。そしてなるべくいつものテンションでやりたいって意味も込めてこの曲、一曲めで番組スタートさせたいと思います。PIZZICATO FIVE「東京は夜の七時」。
「文化系トークラジオ Life」、今夜は『コロナ下の「新・日常」を生きる』というテーマで赤坂 TBS ラジオの第6スタジオから私、速水健朗が――私って言いかた僕しないな――僕速水健朗が朝4時まで生放送でお送りします。早速番組が始まって一つめの嘘をつきました、というね。
「東京は夜の七時」が流れていますが、普通に 25 時ですという Twitter で紅茶のおうちさんからいただいております。曲名ですからね。東京は今夜の1時9分にそろそろなろうとしております。
今日は三密を避けるため、今夜スタジオは僕のほかアクリル板が目の前にあり、もう一人いるんですが、『NewsPicks』エディターの野村高文さんです。よろしくお願いします。
野村 高文:
よろしくお願いします。
速水 健朗:
今回から Life と『NewsPicks』、協業という形?
野村 高文:
そうですね。共同で企画協議する形で。
速水 健朗:
今日の出演者もどっちからも出すという形でお送りしますが、僕と野村さん自身も、出版社の編集者とライターとしてのお付き合いは結構古くからね――。
野村 高文:
そうですね、実はあの 2012 年に一番最初のお仕事をさせていただいたという。
速水 健朗:
なるほど、お世話になりました。
野村 高文:
こちらこそ、お世話になりました。
速水 健朗:
たまたまこう縁で一緒に仕事させていただきますが、もともとラジオも今お出になられているということで。
野村 高文:
そうですね。TBS ラジオの水曜9時、21 時からの「テンカイズ」という番組に出させていただいてまして。
テンカイズ|TBSラジオFM90.5+AM954~何かが始まる音がする~
https://www.tbsradio.jp/tenkai/
速水 健朗:
その前は「デイ・キャッチ」にも。
野村 高文:
そうですね。
速水 健朗:
お馴染みということでいうと、ラジオと仕事としてもここでも今後よろしくお願いします。
野村 高文:
そうですね。ちょっと勝手が全然違って少し緊張してますけど。
速水 健朗:
今日のパートナーなので、今日のいわゆるリモートワークの話とかから始まっていくんですが、そのへんの働きかたみたいな部分、特にフォローしていただけるかと。
野村 高文:
そうですね、ぜひ思うことがいっぱいあるので、よろしくお願いします。
速水 健朗:
はい、お願いします。そしてもう一人、こちらはスタジオの外なので実はアイコンタクトするために窓の外でね、手振ってます。斉藤哲也さん、ライター・編集者、斉藤さん。
斉藤 哲也:
こんばんは。斉藤です。
速水 健朗:
斉藤さんも久しぶりですよね。
斉藤 哲也:
久しぶりですね 。なんか嬉しいね。顔が直接見えるのは。
速水 健朗:
そうなんですよ、僕も隔離開けに会ったのは斉藤さんですよ。頼もしい。
斎藤さんとは Life で一緒にやるのは、2人で進行するっていう意味では、震災後に charlie がお休みしたときにやって以来。Life の斉藤・速水時代っていうのがあるわけですが、ちょっと今日もちょっと窓、ここ 5m ぐらいですか、距離ありますけど、よろしくお願いお願いします。
斉藤 哲也:
ちょっと突然なんですけど、新刊のプレゼントを持ってきたので、ここでもう言ってしまっていいですか。私ですね、今ネット書店で発売され始めたんですけど、『もっと試験に出る哲学: 「入試問題」で東洋思想に入門する』という本が出ることになりまして。今日リスナーのかたに3冊プレゼントしようと思って持ってきました。
速水 健朗:
どうすればこれはプレゼントされる?
斉藤 哲也:
番組終了までに「新刊ほしいぞ」とか「斉藤の本ほしいぞ」とか、ほしいということが分かるメッセージと共に life@tbs.co.jp までメールをいただければ――。
速水 健朗:
住所・氏名・年齢を必ず――。
斉藤 哲也:
そうですね、住所・氏名・年齢を必ず〔書いてください〕。
速水 健朗:
斉藤さんには、こういう「入試の本出しました」から、教育問題であるとか、今の人文の分野から哲学者たちが発しているメッセージみたいな話も今日触れられればと思っています。引き続き何かあったらどんどんツッコミ入れてください。
斉藤 哲也:
分かりました。
速水 健朗:
そしてですね、メインパーソナリティーの charlie をちょっと電話で紹介したいと思うんですが 。charlie もリモート出演ということなんですが、繋がってますでしょうか。
charlie:
はいはい、どうもです……。
速水 健朗:
どうした、元気がないんじゃない?
charlie:
リモートでお伝えしております、失礼します。
速水 健朗:
これ今、深夜の歌舞伎町からお届けしているレポートの感じですけど、どこですか?
charlie:
普通に家の近所のホテルの一室を取ってるんですけども。そうなんですよ、壁ドンされたらこの放送途中でなくなると言っているんですけれども。みなさんお元気でいらっしゃいますでしょうか。
速水 健朗:
元気ですよ。〔charlie の暗い〕モードに引きずられちゃうぞ。
charlie:
速水さんとも前のこの番組の打ち合わせ会議をリモートでやったあとからずっと隔離されていたということで、久しぶりです。お元気でしたか。
速水 健朗:
いやー、charlie も元気でしたか?
charlie:
今日メール1通読ませてほしいんですけど、ほんと自分でもそうだなと思ったのが――ラジオネーム・きなこ棒さん、男性 30 歳・会社員・神奈川県。「今回のテーマがコロナ下の状況で思ったこと・感じたことということですが、僕が感じたことは予想以上に人はすぐに忘れてしまうということです。このテーマでメールを投稿するにあたってコロナについて振り返って考えたんですが、志村けんが亡くなって、緊急事態宣言が発令されて、岡江さんが亡くなって、あれ、あと何だっけ? といろいろあったというだけで、あとは思い出せませんでした。ということで、ほんとにこのように改めて思い出すと、いろいろなニュースや出来事があるのですが、それらの情報が無数の新しい情報に押し出され、記憶の片隅に押し流されてしまっているなと感じる今日このごろです。」というメールをいただいて、ほんとに次から次へといろんなことが起こって、3月のことだったのか4月のことだったのか、あれもう5月みたいな。こないだ桜が咲いたと思ったらもう気が付いたら街が夏の気配みたいな。
リモートになってる間に浦島太郎、みたいな日常を送ってるなぁなんてすごい感じますね。
速水 健朗:
感じますね。僕ら、前回の Life の放送のテーマってね「AI 美空ひばり、是か非か」っていうテーマでやってたことが、もうはるか彼方昔のこととしてね、「そんなの、どうでもいいわ!」ではなく、わりと Life のいつものね――これ charlie がよく、企画中心になってるんですけど――1年前2年前にやったテーマが再び生き返ってくるというか。「ああ、そこで言ってた話って今じゃん」みたいなことって今回も実はたくさんありますよね。
charlie:
その昔「世界がブロック化する」とか言ってたんですけど、気が付いたら物理的にブロックされましたよね。
速水 健朗:
今の状況、そしてずっとコト消費っていうのも charlie が学校でも教えていたことだったんだけど、そのコト消費の次はどうするってことずっと charlie はこの2年ぐらい言ってきたっていう意味では、まさに今起こっていることを「コト消費、ちょっとアップデートしなきゃね」っていう状況じゃないですか。観光もそうだし。
charlie:
そうそう、現実に今年は本当にエンターテイメントについて研究をしようと思って、前回までちょっと話をしたと思うんですけれども、そのエンターテイメントが危機的な状況にある一方で、まあどっこい生きてるみたいなちょっとサバイヴしようと頑張ってるところもあり、そのへんの話が今日はできたらと思ってますので、よろしくお願いします。
速水 健朗:
そうですね、そのへん charlie と事前にやり取りした部分っていうのは、大きいサバイヴってよりも、個々のみんなのちっちゃいサバイヴみたいなことが一つ今日考えるべき僕らのテーマなんじゃないかっていうのが、実は新日常を生きるというなかでの一つ指針として僕も押さえておこうと思っているテーマであります。
そのへんも追って鈴木謙介、charlie に聞いていきたいと思います。
そしてここからは僕ら、どんどん電話の先に専門家もしくは Life サブパーソナリティーとか、お馴染みの人たちに話を聞いていきたいと思うんですが。
まずは1人目いってみたいと思います。今夜1人目はこちらですね、元『日経 BP』編集者で、そしていま東京工業大学教授、そして下半身おそらくステテコでお送りしているであろう柳瀬博一さんです。柳瀬さん、もしもし?
柳瀬 博一:
こんばんは、柳瀬です。
速水 健朗:
変わらないですね、柳瀬さんのモードはね。
柳瀬 博一:
ええ、特に変わってないですけどね。
速水 健朗:
はい、今どこでどういう状態でお話しされてるんですかね?
柳瀬 博一:
これはね、自宅なんですよ、後ろ。足元は潰れた本屋さんのように本がいっぱい並んでて、大学から今――結局授業全部リモートでやることになっちゃったんで。資料いっぱい持ってきてる、そういう状態でございます。
速水 健朗:
柳瀬さんといえば、もともと会議だ取材だっていつも忙しかったんですけど、今もっと輪をかけて忙しそうな――Facebook なんか見てると――気がしますが、そうですよね 。
柳瀬 博一:
今もまさに Zoom 授業の準備をしていたらですね、Zoom がトラブっちゃって、ちょっとセミパニック状態で明日ちゃんと授業できるのかって。
速水 健朗:
もう明日授業あるんですか。
柳瀬 博一:
明日授業なんですよ。だからもう連休関係ないんですね。だからずっと連休というか、この1ヶ月事実上学生たちお休み状態だったので、暦通りに明日もありますし6日も授業あります。もうゴールデンウィーク関係ないですね。ただし全部リモートでと。
速水 健朗:
会議もリモート、授業もリモートとなるんですけど、どうですか。この状況、今スタート切れる感じですか。
柳瀬 博一:
普通の会議だったらいいですけど、授業はそれこそ今もトラブってるのは、Zoom ってベーシックと有償版があって、大学なんかはライセンスドなんですけど、一回ライセンスドにしたアカウントが、今なぜかベーシックに戻っちゃって古いデータが立ち上がっちゃったりとか。すごっく不安定なんです。今 Skype で映像流れていますけど、もう長年使っているサービスに比べると〔Zoom は〕全然不安定で危ないですね。
参考:
Zoom 料金表
https://zoom.us/pricing
速水 健朗:
なるほど。いわゆる安定性みたいなことでいうと、Zoom、すごい勢いでみんなが知っている存在になって、おそらく今年の流行語大賞レベルの――「Zoom 飲み会」とかね――なってきますが、実は普及してまだ間もないインフラですよね。
柳瀬 博一:
そうなんですよ、遊びで使ったりとか、出入り自由な会議だったらいいんですけど。大学の授業で僕らも使うわけなんですけど、公式の場や例えばコンサートとか講演だとかで使うには、まだ僕自身が今経験してるレベルのトラブル見る限りだと、結構危ういなって感じありますね。
速水 健朗:
それは Zoom 自体の、いわゆる脆弱性なのか、もっとそういえば大学の施設自体が持っているインフラ、サーバーとか、そういうところって不安ってないですか。
柳瀬 博一:
一斉に日本中というか世界中の学校とか教育機関がこの5月あけぐらいからぶわーっと使いますよね。各セクションのローカルの部分もそうですし、会社としての Zoom もそうですし、Zoom だけじゃないですよね。MS〔=マイクロソフト〕の Teams だとかいろいろありますけれども、相当いろんなところに負荷が掛かる。そういえば、今 YouTube の利用が増えているから映像レベルをダウングレードしていますよね。これ、似たようなことや予期しなかったトラブルがあるのを前提にしないと結構危ないっていう感じがします。
速水 健朗:
一方これハードウェア、インフラの部分ですけれども、教える側とすると、ソフトウェアというか、教えるメソッドみたいなものっていうのを確立されていないなかでやっているわけでしょう?
柳瀬 博一:
ええ、そうなんですよ。僕メソッドというレベルじゃないですけど、例えば今 Skype で映している映像は――これは Zoom のときでも使おうと思ってるんですけど――Sony の α7 に繋いでるんですね。いわゆる 35mm のフルサイズのカメラに繋いでいます。それからマイクはプロ用の Yeti〔イエティ〕を買ってきました。
速水 健朗:
それは経費で?
柳瀬 博一:
ええ。このあたりは自分で買ったやつもありますが。カメラはもともと自分で買いましたけどね。結局なんでかっていうと、Zoom が一方でよくできている部分は、このこうやって話した内容と PowerPoint やなんかを共有した映像をシームレスで自動的に録画していると、編集しないで一本のコンテンツにしてくれるんですよね。
MP4 データにしてくれるので、それを YouTube にアップしたりだとか、あるいは直接渡したりってことがすごくしやすいんですね。しかもすごい軽い形で渡してくれるので。
ただ、試してみたらね、やっぱり――僕今 MacBook Air なんですけど――これのウェブカメラとマイクだと、映像と音がショボいから授業だと結構長い時間見ないといけないじゃないですか。1時間半とか。そうすると、やっぱり映像がちょっとプアだと見てるほうが辛かったり、あとマイクの音が汚いと結局1時間以上の映像って見てられないんで、半分「ながら」で聞くことになると思うんですよ。
そうすると映像以上に音声が結構重要だなってことで――マイクはちゃんとしたのに変えて、やっぱり音がぜんぜん違うので――長いコンテンツを、Zoom も含めてこういうので作るときは、映像もそうですし音声系でいうとマイクが結構重要だなっていうのが、ここひと月ぐらいいろいろ試行錯誤して経験したところの実感ですね。
速水 健朗:
なるほど。その話非常に面白くて実践的で、柳瀬さんが今目の前に迫っていることに対応している話なんですけれども、だいたい Life で柳瀬さんに話を聞くときって、もうちょっと文明的な話であるとか、大きい話を伺っておきたいかなと思うんですけど。
今の状況みたいなところで、目の前の Zoom 対応以外のところでいろいろ関心事であるとか、今思っていることみたいなことも伺っていいでしょうか。
柳瀬 博一:
僕実は最初に Zoom をちゃんと使ったのは授業じゃないんですよ。お通夜とお葬式なんです。
速水 健朗:
ほー、そこからいきなり使っていたんですか。
柳瀬 博一:
ええ、そうなんです、4月半ばに私のおじが――新型コロナとは関係なく大往生で亡くなられたんですけど――母方のおじで、実家が私の静岡のほうなんですけど、家族が大家族だったので全国に散らばっているんですよね。
で、例えば僕の妹ですけ、海外にいたりするんで、このご時世で集まれないわけです。僕も東京から行けないってときに、実家にいるいとこ――おじの息子とうまく繋いで、お寺とそれから葬儀屋さんにもオッケーをとって、お通夜とお葬式――お寺でやったお葬式ですね――スマホで繋いでもらったんですね。
Zoom を使って僕がハブになって、全国にいるいとこやおじさんおばさん繋いで、多分日本でまだあんまりやってない段階だと思うんですけども、お通夜、お葬式を Zoom 中継したんですよ。
速水 健朗:
新しいというか、それはどうなんでしょう。実際にみんな対応できたんですか。
柳瀬 博一:
わりと単純にできたんですけど。思ったのは、これはもしかすると別に新型コロナでなくても、結構いいなと思ったんですね、変な話。
特にお通夜・お葬式って家族が世界に散らばってたりだとか、遠縁だったりするとなかなか行けなかったりしますよね。場合によると急に亡くなったケースなんかもあると思います。
例えば Zoom 一つ、このスマホと例えばパソコンの画面1枚通してでも、リアルタイムでお通夜やお葬式に参加してるのとしてないのとではずいぶん違うなってのは、自分が実際に主催して、いとこやおじさんおばさんと遺族と話しててもずいぶん違うなぁと。
だから一番プリミティブというか、古い儀式を一番最新の Zoom で僕体験したのは、案外これは向いてるなって思ったのと、先ほど速水さんが言った文明論的な部分でいうと、僕は今回の新型コロナウイルスで起きてる現象っていうのは、非常に脳みそと体をバラバラにしてる状態だと思うんですよね。
もともと人類って 150 人とか 30 人ぐらいの集落で暮らしていて、大都市文明になったのはおそらく――変な話ですけど――疫病が流行るのと大都市文明とグローバリゼーション、セットですよね。もうすでに最近みんな勉強してるけど、ペストもそうだし、天然痘もそうですよね。大都市文明と巨大な人類移動とセットなんですけども、逆に言うとそれまでの人類ってのは小さな集落で暮らしてるから、集落1つが絶滅することはあっても集落単位がちっちゃいと、疫病が大量に流行ることってなかったわけですよね。
速水 健朗:
リスクヘッジに町の人数がなっていたということですね。
柳瀬 博一:
なってた。一方でよそ者をすごく警戒するって、これは日本に関わらず世界中どこでもあるっていうのは、今回初めて実感しましたけど、疫病に対する文明的な文化の部分は間違いなくどっかであったんだろうなっていう感じがあるんですよ。
速水 健朗:
なるほど。共同体が蘇ってきている部分って多々ありますね。
柳瀬 博一:
そう。ところがその一方で僕らは究極のグローバリゼーションでインターネットとロジスティックスで繋がってますよね。だから物と脳みそだけ繋がって、体が原始時代に戻っちゃったような、そんな感じだと思うんですよ、今って。
その時に一番人類がやったおそらく最初の儀式の一つは葬式だと思うんですよね。
速水 健朗:
文化人類学っぽい話になってますね。
柳瀬 博一:
うん。だからおそらく、さまざまな文明の遺跡を見ると葬式に準じた死者をとむらうものってのは、ものすごく古くからありますよね、数万年前から。そうしてみたときに、その一番古い集落の隅にあるお墓や古墳や、そこで何らかの儀式をやった我々の先祖の行動と、一番グローバリゼーションの権化のインターネットで、しかも Zoom っていうサービスとセットにした時に、この一番プリミティブなお葬式やお通夜みたいな行為とグローバリゼーションのサービスがガチャっとくっついた時に、意外と温かくて、これは悪くないなって実感を僕は持ったのが、個人的に、こういうウイルスが流行ってしまって文明を1回僕らがリセットしないといけない部分に来ているときに、インターネットっていう道具とロジスティックスという武器があると、集落がバラバラのまま繋がってるっていう、人類史上初めての不思議な環境に僕ら置かれていて、脳みそは意外とそれに――個人的ですけど――わりとちょっと適応したなって感じをそのとき思ったんですよね。
速水 健朗:
なるほど、儀式的なところが非常に注目されたときに、Zoom で新しい儀式みたいなものが蘇ってくるみたいな、非常にちょっと議論のスタート地点として面白い話をしていただきました。
柳瀬さん、ちょっと今後もほんとはずっと繋ぎたいんですけれども、なんかいろいろそちらもね、お忙しそうなので、もし大丈夫であればしばらく繋いでおきますので――。
柳瀬 博一:
タイミングいい時に連絡ください。トラブル・シューティングをしながら待ってます。
速水 健朗:
またちょっと絡んでください。柳瀬博一さん、今お話を伺いました。
柳瀬 博一:
どうも、ありがとうございます。
速水 健朗:
ありがとうございます。
一旦――これは電話繋がってるかな――charlie に戻したいんですが、charlie。今の Zoom お葬式みたいな、いわゆる死にまつわる儀式みたいなものと共同体の話、今しました。これ、わりと charlie の得意な分野でもあるかなって気がしたんですがいかがでしょう。
charlie:
今エンタメのかたとかがオンラインでいろんなものを配信してますよね。そうした配信されていくもののなかに、そういう儀式的な、例えば投げ銭なんてのもそうだし、そういうものも出てくると思いますし、教育とちょっと絡めると、このあとの話とも繋がってくると思うんですけれども、例えば Zoom を最初に入れた学生が何を始めるかっていうと、Zoom 飲み会とかもありますけれども、画面をタイル状に並べてみんなでハートマーク作ったりしますよね。
あれって結局、身体的なアイスブレークで最初にやる「手繋ぎましょう」とか、「人間チェーンをやりましょう」の画面版なんですよ。で、そういう共通体験みたいなものを画面のなかで共有することによって、やっとアイスブレークができるっていうのが、いろんなところで自然発生的に起きていて、そういうとこを見ると身体性みたいなものとか、そういうものを介在させながら、なんとか画面の向こうの人とのコミュニケーションをやり取りしようとしてるのかなと、そんなことをと感じますね。
速水 健朗:
なるほど。それも非常に面白い話です。議論のスタート地点としたいと思います。
野村 高文:
儀式で思い出したんですけど、入社式とか入学式とか始業式とか無駄だろうと思うものって、意外に意味があるっていう説があるじゃないですか。そこによって共同体の一員として受け入れられてスタートするっていうところがあるので、なおさらこの Zoom 時代だとオンライン入社式とかをやって、「あなたはちゃんとこの我が社の一員ですよ」っていうふうに迎え入れる儀式が必要になってくるのかなと思うんですよね。
速水 健朗:
その儀式も今僕らが考えているようなものとは違う形で出てくるかもしれない――。
野村 高文:
1個最近あの問題というか、少し会社でかわいそうだなと思ったのが、退職する人がいたときに、普段って儀式として送別会とかやるじゃないですか。
速水 健朗:
送別会やって胴上げやりますよね。
野村 高文:
胴上げやりますよね。
速水 健朗:
万歳やりますよね。
野村 高文:
そうなんですよ。それによってある意味共同体を離れていっても関係が継続するっていうのがあると思うんですけど、今はフワッと辞めていくんですよね。
速水 健朗:
今のタイミングだとやってくれないですよね、儀式は。それをどう僕らはもう一回立ち上げ直すか、みたいなところをひょっとしたら問われているかもしれない。
ここからは共同体のなかでも会社の話にいきたいと思います。
ここで繋ぐのは宇田川元一さん、埼玉大学経済経営系大学院准教授なんですが、野村さんから紹介――NewsPicks でお馴染みのね。
野村 高文:
はい、NewsPicks の出版部門の NewsPicks パブリッシングから、『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』という本を昨年出版されました経営学者の宇田川元一さんですね。
速水 健朗:
宇田川さん、お電話繋がってますでしょうか。
宇田川 元一:
はい、繋がってます。宇田川です。よろしくお願いします。
速水 健朗:
よろしくお願いします。まず宇田川さん、経営学の専門ということで、リモートワーク時代の話をお伺いしたいのですが。
まず、今宇田川さんがどういう働きかた――リモート多いんですか、みたいなところから聞いてみたいんですが。
宇田川 元一:
そうですね。どうしても行かなきゃいけない用事があったんで、先週の金曜日、1ヶ月以上ぶりに大学に行けましたけれども、ほとんど家の周りしかいないですね。家で仕事していて。
速水 健朗:
もうその程度しか行かなくても仕事ができている状態は築かれている。
宇田川 元一:
そうですね。こんな状況ですので講義も家でやってます。
速水 健朗:
そして今の企業の現場の話、伺いたいんですか、例えば宇田川さんのもとに、例えばリモートで働くのでいろいろトラブルが起こってますよみたいな、相談って来てたりするんですか。
宇田川 元一:
野村さんと一緒にやってた音声番組とかでも来てたことなんですけど、リモートの環境になったことによって、ネガティブなことを言いづらくなったとかですね。部下に対してとかね。そういうことっていうのは一つありますよね。
速水 健朗:
ネガティブなことが言いづらくなった。良くないんですか?
宇田川 元一:
例えばネガティブなフィードバックですよね、部下がもうちょっとこういうふうにちゃんと働いてほしいなとか、ちゃんとパフォーマンスが出てないんだけれども、とかっていうことに対して、画面越しで言うと角が立ってしまうとか。
実際にお互いにどういう文脈で仕事してるのか分からないわけですよね。ずっと見られる環境ではないので。そういうことがあって、どういうふうな声の掛けかたをしたらいいかとか、そういうところの課題を感じてるっていう声を聞きますね。
野村 高文:
そうですね。ちょうど今関連するお便りをいただいたんですけど。ラジオネーム・暇ねずみさんからですね。「そもそもこのリモートにおける問題っていうのがこのジョブ型・メンバーシップ型という働きかたの2分類のことが思い出されました。」っていうコメントでして。「そもそもその業務内容をしっかりとディスクリプトできていなかったという日本企業、働きかたの特性があり、採用における不確実性が低く多義性が高まってしまった結果、リッチネスの高い面接のほうがウェブ面接よりヒットしやすいのではないかと仮説を導き出しました。結局コロナ下で浮き彫りになったのはツールをどう使うかというよりも、そもそも働きかた・業務のありかた、そもそものコミュニケーションについて見直すことの重要性がないでしょうか」っていう――。
速水 健朗:
これね、ジョブ型・メンバーシップ型っていうの僕ら Life のなかで何度か取り上げたテーマなんですけど、専門家を雇うっていうよりも、日本の会社ってチームを作ってみんなで頑張って何かに取り組もうみたいな。それはメンバーシップ型がすごい短略化すると言っていて。個々がプロフェッショナルというよりも、そのなかで OJT 的に学びながらチームでぶつかっていこうみたいな働きかたでこれまで来ていたと思うんですけど。そのへん、どうでしょう。
今までの日本的な家族経営みたいなものとか、プロフェッショナルじゃない人たちで何かしらのチームを作っていくような体制って今後も、日本企業はこの体制でやっていけるのか。それとも大きく変化を――組織のありかた――変化を求められているのか。このへんって宇田川さんどう思われますか。
宇田川 元一:
この変化に関して言うと、必ずしも新型コロナウイルスの蔓延の問題が直接的にこれで始まったっていうことではないと思いますね。長い時間を掛けて起きてきた変化であるっていう風に思います。
今業務自体がもう十年以上前からどんどん IT 化されてきていて、電話でお客さんともあんまりやり取りしないわけですよね。
速水 健朗:
今はメールがベースになっている――。
宇田川 元一:
そうですよね。そうすると上司が部下がどういうふうに仕事をしているのかっていうのは基本的にあまり見えないわけですよ。
速水 健朗:
もともとそうですよね。昔は電話でやり取りしてたら、「いやお前、その口の聞きかた、ないだろう」みたいなことって分かったんですけど、今はメールだとそこは秘されてしまっている、見えなくなってしまっている。可視化される状況がないっていう問題はもう 10 年前から起こっていたぞと。
宇田川 元一:
そうですよね。そうするとトラブルが起きていたりとかってこともよく分からないし、どういう状況で今部下が働いてるのかとかっていうのは、なかなか分からないってことが起きているわけです。
同時にマネージャー・クラスの人たちもどんどんプレイング・マネージャー化が進んでるわけですよね。自分自身もそのプレイヤーとして動きながらマネジメントしなきゃいけないっていうような流れのなかで、よく分からない状態であるっていうことに向き合わなきゃいけないとずっと続いてきたことだと思います。
それが今の状況下において一段加速しているというか、問題だったことが分かりやすく目に見えるようになってしまったという、そういうことじゃないですね。
速水 健朗:
あと非常にもっと単純に、例えばネット上でコミュニケーションが隠れてしまっているみたいなところでいうと、僕なんかも放送局の仕事場で感じることなんですけど、例えば上司から部下まで全部情報共有しとかなきゃいけないことって、非常に IT になった瞬間にちょっと難しくなっているというか。
例えば誰が体調不良で休んでいるみたいなことって、上司は把握してるんだけど現場は伝わってなくて、「あれ、誰々はなんでいないの?」とかっていう、ごくごく当たり前の情報共有みたいなところが漏れているみたいな。上司もいちいちこの情報について全員に一致するみたいな、細かいことだったらしないとか。そういうこともなんか起こってそうですよね。情報共有っていう問題の部分。
宇田川 元一:
そうだと思います。だから、お互い実は見えている景色っていうものが変わって、違う隔たりがあるわけですね。私の本の副題にもありますけど、分かり合えなってものを抱えているし、それが断片化されたのがつむぎ合わされる、そういう状況っていうのがなかなか難しくなってきていると。
さらに今新型コロナウイルスの問題で、なおそれが如実に出ているので、その結果として最初に申し上げたような、例えばその部下が、ちゃんと働いてくれないなとかっていうことが出てきたときに、何か言ったときに、上司からすればすごく不満があるわけだけども、部下は部下なりに実はいろんな状況抱えながら頑張っていたのか、またサボっていたのか。なんだか分からないけどそういうお互いの状況が全然見えない状態になってるわけですね。
だから変な不信感みたいなものとか、ギスギスした感じっていうものが今出てきているんだろうなっていうふうには思います。でもこれはずっと続いてきた流れのなかにあるというふうに私は理解してます。
野村 高文:
それで言うとリアルな職場でもある意味起きていて、見て見ぬふりがされていた問題っていうのがこのリモート時代になって顕在化したってことですかね。
宇田川 元一:
そういうことだと思いますね。
速水 健朗:
はい、そして世代的な問題というか、今組織のなかでリーダー、プレイング・マネージャー、ただ単に指示を出してるだけではなく自分の業務も果たしながらっていう、まさに 30 代 40 代ってそういう立場になってると思うんですが。もうちょっと会社を大きく俯瞰して、経営者であるとかもっと上の世代、そして若い世代も必ずしも今 20 代、パソコン使えない世代って言われてたりもするじゃないですか。
こういう世代格差、デジタル・デバイドみたいなものっていうのは、宇田川さんの経営学の本を僕も読ませていただいて、経営と現場とか、制度と開発とか、みんな持っている言葉や情報であるとか齟齬が生じるんだっていう話と、そこをどう乗り越えるか、一歩下がって自分がそこのげんを通じるように一歩下がるんだ、みたいな話が書かれてますが。
デジタル・デバイドや世代問題に関しても同じなのか、また違うところに日本の企業は新しいことに挑まなきゃいけないのか、これどうでしょう。
宇田川 元一:
今起きてることって意外にいい側面もあったりするかなって実は思っていてですね。例えば私の大学の教授会は今 Zoom でやってるんですね。そうすると今までそんなことって全然考えられなかったわけですよ。だけどもともとそんなにうちの学部の教授会は長くはないんですけれども、より効率的になったりとかってことは起きているわけですね。
私がアドバイザーをしてる企業は、結構大きい会社でも社長さん以下みんなやっぱリモートで仕事をするようになったと。経団連の会長さんでしたっけ、なんかハンコはもうデジタル時代に合わないみたいなことをおっしゃっていたように記憶してますけども。
速水 健朗:
そもそも会長室にパソコンを持ち込んだ最初の人ですし。ナンセンスって言いかたされてましたよね、ハンコは。
宇田川 元一:
やっぱり実際に使ってみて「あれこれ意外に便利じゃない?」っていうところを、毛嫌いせずにやらざるを得なくなったんで、それを1回経験してしまったのはかなり大きい変化に繋がるだろうなというふうに思ってますけどね。
速水 健朗:
有無を言わさず今の状況になって、意外と Zoom 会議なんか、やってみれば乗り越えちゃってる部分ってあるのかもしれないですね。
このへんの話を、柳瀬さんにもう一回戻しても大丈夫ですか。柳瀬さん?
柳瀬 博一:
大丈夫ですよ。はい。
速水 健朗:
Zoom――デジタル・デバイドとか、若い世代――学生、柳瀬さんだと現場ではもっとおじいちゃんの先生とかも高齢者のかたもいるんですが、デジタル・デバイド、 Zoom 会議でうまく意外と乗り越えちゃってる部分もあるっていう話が今、宇田川先生の話でしたが。
柳瀬 博一:
意外と――さっき Zoom の不安定さの話はしましたけど――一方でユーザー・インターフェースはすごくいいんですよね。なので案外僕の周りで見てる限り、さっきのお葬式の話もそうですけど、デジタル・デバイドが意外とないなと思ったんですね。
速水 健朗:
親戚のおじさんおばさんとかだと結構苦労しそうな気もしますけどね。どうだったんですか。
柳瀬 博一:
実際にやってしまうと「あら簡単だわ」「意外とできる」「ああ見えた見えた」なんて感じだったので、少なくとも Zoom に関して言うと、わりとデバイドに関して言うとクリアしてるなと。そこに関しては素直に優れたソフトウェアだなという感じがしましたね。
速水 健朗:
なるほど。職場での働きかたの部分で言うと、柳瀬さん、学校の先生であるだけではなくて、ずっと日経 BP でも働いていた今でも、授業以外の部分ってあると思うんですが、どうでしょう。その上司と部下なのか分からないですが、職場同士のコミュニケーションの齟齬ってかなりありそうですよね。
柳瀬 博一:
僕は、これはいいとか悪いではなくて、会議の中身や質がずいぶん変わるだろうなと。
速水 健朗:
会議そのものの質が変わってしまうと。
柳瀬 博一:
ええ。プラスになる部分とマイナスの部分とあって、その意味で言うと、性質が変わるだろうなと。
まず無駄話がなくなるなと、やってみると。ただ座っているだけでいいという状態ではなくなるので、順番に話をする感じになるので、発言が明確に求められますよね。
速水 健朗:
みんな一人ずつこの意見に関して全員意見を言ったあとに次に行くみたいなことが行われていると。例えば順番を横入りする――これ柳瀬さんの得意技だと思うんですが――とか関係ない話に脱線するっていうことが減りますよね。
柳瀬 博一:
たぶん減りますね。
速水 健朗:
それ、いいことですか、悪いことですか。
柳瀬 博一:
たぶんプラマイ両方あると思うんですよ。例えば雑談から生まれるクリエイティブなんてのは、ちょっとやりにくい部分もあるなあっていうのと、今のところはまだ身体性を伴ったツールにはなり切っていないので、相手のたたずまいとセットでやっている部分ってのもありますよね。
速水 健朗:
顔色を伺って「今だったらこの話、俺入れる」っていような勘が効かないっていう、Zoom だと。遠慮しがちみたいなところって、先ほど宇田川さんにも伺ったところと繋がるなっていう気がするんですど。この会議の無駄の部分が失われることに関して、宇田川さんにもう一回話を伺ってみたいんで、話を宇田川さんに戻したいと思います。
宇田川さん、今会議のなかでも、無駄な部分、雑談であるとか、誰かが横やりを入れるとか、そういうところから生まれるクリエイティブみたいなところが、Zoom の会議では難しくなるところに関してご意見あります?
宇田川 元一:
私の研究のベースの一つがナラティブ・アプローチっていう、語りをベースにした研究なんですけれども、医療とか臨床心理とかの領域で発達したものなんですけれども、医療の領域でどんなことから発達したのかというと、お医者さんが「患者さんが言っていることがよく分からない」っていうところから始まったりしているんですね。
お医者さんからするとサイエンティフィックに見れば全然非合理な行動ってのを患者がしているとか言っているとか。そういうことって無駄なわけですよね、お医者さんからすれば。だけれども、実はそれらっていうのには、ちゃんと患者さんなら患者さんの世界なりには一定の意味がある。そういう風な、水面に浮かんでるポツポツと浮かんでる島があって、水位を下げて見ると下は山で繋がってたんだみたいな。そういうようなものを見ていかないと結局いい医療ってできないよねっていう話から一つ発達してきたっていうことがあるんです。
同じように、一見無駄に見えるものっていうのがどういうふうに、発話している人とか、やっている人にとって意味がある、一定の一理あることとして言ったりやったりしているのか、あるいは起きてる現象とかでも無駄なことのように見えるものがどういうふうに意味があるものなのか、これを解きほぐしていかないといい仕事ってできないじゃないですか。
お客さんの言動だってそうだと思うし、部下や上司の行動だってそうだと思うんですね。そうすると、機能的になるっていうことは、最初に設定したアジェンダにとってはいいんだけど、それから外れていくことっていうのをどうしても削ぎ落としてしまうので、クリエイティビティっていうふうに先ほどおっしゃいましたけれど、新しい発見というものが非常に難しくなるってのは事実だと思いますね。
速水 健朗:
なるほど。同じ言葉で話してると思っても、全然共有している情報や知識が違えば噛み合わないっていうような状況を、Zoom だとなおさら難しくなるので、その無駄を作ったり違うフェイズの話みたいなものをやりとりできるような、ちょっと Zoom のなかでも今できてないことをやれるような工夫みたいなものが、今後注目されないといけないっていうことですかね。
宇田川 元一:
そう思いますね。Zoom に限ったことではないんですけど、ちょうど私昨日ブログ書いたんですけどね。最近あるかたから相談を受けたことで、ベンチャー企業でアーリー・ステージのところとかが固定費を下げるためにオフィスを解約してるって話があるんですね。「オフィスって本当にいるんですかね」っていう質問を受けたんですよ。
速水 健朗:
そこですね、今の状況としては近々で起こり得ることで、オフィス必要なくなった、しかも都心のオフィスが必要なくなった場合に、大きく東京の地価も変わるし、不動産状況が変わるみたいなことが今後起こっていく可能性高いですか。
宇田川 元一:
そうですね、ただオフィスって、じゃあ何のためにあるのっていうことだと思うんですね。仕事をするためだったら、もしかしたら Zoom でいいかもねって話だと思うんですけどね。リモートでやってもいいかもねと。
でも、お互い見えている世界が全然違っているずれを修正するというか、噛み合わせるために、実はいろんなメディアでのやり取り――メディアってのは、例えばこうやって電話で繋ぐとかもそうだし、メールのやり取り、Slack のやり取りもそうだけど、フェイス・トゥ・フェイスっていうメディアもありますよね。いろんなメディアを通じて我々って世界観の交換をしているところってのがあるわけですね。
それをすり合わせるために、ある意味でオフィスっていうものが、もしかしたらあったのかもしれないなんて思ったりもしているところです。
速水 健朗:
そうするとオフィスレスっていうのは、ある程度進むかもしれないですけれど、逆にそこの機能を僕らはもう一回改めて見直してしまっている段階かもしれない。
宇田川 元一:
逆にそれが何のために我々にとって必要だったのかっていうことを考える、いい機会というかね。そんな悠長なこと言ってられる状況でもないんだけど。
速水 健朗:
まずは今移動できないっていう状況ですけど、そうじゃなくなったときに、オフィスの良さみたいなものを削ぎ落とされたオフィスになるのか、オフィスの機能っていうのも変わるのか。そのへんはまだ未来予測になってしまいますが、非常に注目すべきオフィスの機能――。
宇田川 元一:
今まではある意味で漫然と使っていたものの価値が逆にすごく上がるかもしれないです。
ある会社に昔インタビューに行ったんですね。クリエイティブ系の会社なんですけども、オフィスを丸1日いきなり閉めるっていうことやったことがあるそうなんですね。そうすることによって逆にオフィスっていうものが一体どういうふうな意味を持っていたのかって自分たちがすごく考える機会になったんだと。それを狙ってやったらしいんです、そこのあの代表の人が。
速水 健朗:
すごい先見性ですね、それは。
宇田川 元一:
すごいですよね。
速水 健朗:
その会社は今の状況におそらく最初から対応できますよね。
宇田川 元一:
そうだと思いますね。
速水 健朗:
そこで何が起こったのかすごい興味が湧く。
宇田川 元一:
なんとか助け合って、同じ同僚の近くの家でみんなで LAN を共有して仕事したとかね。いろいろやったみたいですけど。
今ってそういうふうに、人為的じゃなくて感染症という形でだけれども、今まで当たり前だったものっていうのを括弧に入れられて対象化して、それは一体何の意味があるのかっていうのを一個一個考え直さなきゃいけない時期になっていると思うんですね。
速水 健朗:
なるほど。オフィス、非常に今だからこそ不動産価値みたいなところではなく、オフィスそのものを考えてみるいいきっかけですね。
野村さんもオフィス今、あまり行かれてない――。
野村 高文:
はい、オフィス行かれてない。
速水 健朗:
オフィスに必要なものってあったなと思います?
野村 高文:
今の宇田川さんの話を聞いて思ったのが、よくベンチャー企業で、会社に社是というかビジョンが書いてある会社ってよくあるんですよね。
速水 健朗:
ベンチャーでもあるんですか?
野村 高文:
ベンチャーでもよくあります。昔の会社は額とかに書いてあると思うんですけれども、ベンチャーだと壁とかにかっこよくデザインされて——。
速水 健朗:
なるほど、今どき風な。
野村 高文:
そうですね。うちの会社のビジョンはこうですと書いてある企業があるんですけれども、それって今宇田川さんの話を聞いて思ったのが、ある意味社員の向かうべき方向っていうのを、その都度すり合わせているっていう機能があったと思うんですよね。
速水 健朗:
あと、おそらく標語になってなくても、椅子の配置――例えば、偉い人でもフラットだとか、色使いとか、いろんなところにその企業のアイデンティティーとか向かう先、方向とかが出てるわけで。それが完全にオンラインに移行できるのかっていう問題になってきますよね。
野村 高文:
丸いテーブルなんか典型例ですよね。
速水 健朗:
会議の仕方も相当仕掛けによって時間を短くするとか、予約システムとか、立ってやるとか、いろいろ僕らは密接、近接性のなかでどう仕掛けを作るってやってきた流れがあって。
ちょっとこれ、斉藤哲也さんに聞いてみましょう。
斉藤 哲也:
はいはい。宇田川さん、どうもお久しぶりです。
宇田川 元一:
お久しぶりです。
斉藤 哲也:
以前インタビューさせていただきまして、ありがとうございます。
宇田川 元一:
こちらこそ。
斉藤 哲也:
今、オフィスっていう空間の話をされていたと思うんですけれども、ちょうどインタビューのときに宇田川さん時間の話をたくさんされていて、今どうなんでしょうね、
こうやって空間もばらばらになって、Zoom などでコミュニケーションしているなかで、人々の時間の感覚みたいなものっていうのが変わってんのかどうかっていうのは伺いたいなと思っていたんですが。
宇田川 元一:
そうですね。私もついやっちゃうんですけれども、ミーティングを詰め込みすぎるとかいうのはすごくありますよね。先週学生から「テクノロジーが進歩したら人間は怠惰になるんですか」みたいな質問を受けたんですけども、むしろテクノロジーが進歩してどんどん効率的になれば、人間ってどんどん働くようになるんだなって逆に思ったりもします。
でも、時間にも2つあるって話を斉藤さんとお話をしたときには〔しましたね〕。一つはクロノスの時間、もう一つがカイロスの時間ですね。つまり物語的な、「今ってどういうときなんだっけ?」っていうそういう時間。そういう次元で考えてみると、先ほどのオフィスの話でいうと、ある意味カイロス的な時間、つまり物語的な世界観ってものをどう我々があらわにしていくかっていう話でもあると思います。
で、クロノス的な時間でいうと、実は結構忙しくなってしまうっていう。この状況に慣れると、どんどん逆に忙しくなるっていうことが起きうるんじゃないかなあとも思っています。
速水 健朗:
なるほど。Zoom 会議、たくさん入れちゃうのと、会議一つ一つが長くなるみたいなことも、非常に今後働きかたとしてはテーマとしておそらく出てくる問題になりますよね。
この話をメインパーソナリティー鈴木謙介さん、charlie に戻したいと思うんですが。
時間の話は charlie もずっとテーマにしてるんですが——。
charlie:
そうですね。時間の話の前に少し押さえとかないといけない話があって、まず送別会がないって話があったじゃないですか。ところがですね、この十数年の間に送別会がない働きってすごい増えていったわけです。非正規の人たちです。この人たちってフワッといなくなりますよね。
で、会社のなかの仕事っていうものが、機能だけを任せる人と、世界観を共有する少数の人の二層構造でやっていこうっていうふうに変わってきたのがこの十数年の変化で、その変化のなかで共有する世界観ってのはちっちゃくちっちゃくなっていったんだと思うんですね。
その人たちが作ったビジョンを、非正規の人たちが一方的に担当するというような、そういう二重構造があって。
なんで僕そう言おうと思ったかっていうと、僕、この番組の打ち合わせってリモートでやってたじゃないですか。まさに世界観とか「あうん」が共有できないことの疎外感ってのを僕もこの数年間、もう毎月のように感じていて——。
速水 健朗:
「ちげーよ」っていう。
charlie:
――やっと世界が俺に追い付いたなと。みなさんが今感じていらっしゃることって、僕自身やっぱこの数年感じてきたことでもあるし、だからこそアップデートするんであれば、「対面重要だよね」とか、物語的な時間を共有する重要さってのもあると同時に、せっかくテクノロジーがあるんだから、その先に新しい共有の仕方だったり、これができるんだったら、それこそもっと今までほんとに二重構造にされてた人にもナラティブを共有できるんじゃないかとか。そういう方向の知恵の発揮の仕方はあるのかなと思ったりしました。
速水 健朗:
なるほど。charlie はずっと——この番組はもうほんと3年ぐらい、もっと前? から、ずっとオンライン会議を何時間もやるっていうのは、実は経験済み。で、特に charlie はそうだろうな。
なるほど、そこはたしかに先んじていて。僕らが鈍感で気付いていなかった。「今気付いた、ごめん」っていう感じ、非常にあります。
えーと、柳瀬さんまだ繋がっています? そろそろ時間なんで、最後ちょっと——。
柳瀬 博一:
あ、大丈夫です。あのね、トラブル今修復したから、大丈夫になりました。今電話を受けながらずっとトラブルシューティングしてました。
速水 健朗:
今のコーナーでいうと、柳瀬さんのステージかなと思うので、最後締め的なものをここでご指導いただきたい。
速水 健朗:
さっきの話のクリエイティブの話でいうと、実は裏腹のこともあると思うんですよ。どういうことかっていうと、今、海外とか沖縄にいるいくつかクリエイターの人たちとしょっちゅう連絡を取ってるんですけれども、例えばプログラムを作っている人たちとかあるいはアート作品作ってる人って、もともとこの環境が当たり前なんだそうです。
速水 健朗:
なるほどね。そっかそっか、たしかに。
柳瀬 博一:
IT の世界でいうと、インドと上海とシリコンバレーの連中が一回も会ったことないまま、すごいコンテンツを普通に作るってのは、もう 20 年以上前からやってるんですよね。
実はこのラジオの前に夕方まさにそういう会議を Zoom でやったときに、一方でこれから問われるのは、先ほど僕や宇田川先生もおっしゃった話と繋がる――いやひっくり返っちゃうような話なんですけど――ナラティブな状況や言語的にズレがあっても乗り越えられるだけのリモートのクリエイティブな会議能力みたいなものが、結構競争力として問われちゃうかなっていう感じが一方でするなと。
古いおじさんとしては僕にはちょっと難しいかなと思いつつ、それが現実問題として、映像だとかプログラムの世界ではとっくにやられてる世界でもあるなと。これは結構ハードルになるし、英語、日本語、中国語の問題ではなくて、日本のわりと非言語的なコミュニケーションにクリエイティブがセットになってた部分って間違いなくありますよね。そこに対する一つの新しいパラダイムシフトと挑戦が待ち受けてるなって感じを、一方で僕は今感じています。
速水 健朗:
クリエイティブの部分で先行しているけど、これ働き方なんかもある程度言語が違うまま乗り越えていって製品を作ってしまうみたいな社会が、実はもう半分足を突っ込んでいるのではないかという。
このコーナーでは働き方、会社の今の状況についてお話を伺いました。柳瀬さん、宇田川さん、どうもありがとうございました。
柳瀬、宇田川:
ありがとうございました。
速水 健朗:
そして charlie、曲をお願いします。
charlie:
はい、曲なんですけれども。最近エンターテイナーのかたがた、 YouTube でいろんなものを上げていますよね。そのなかで今日ご紹介するのが 22 歳のシンガーソングライター・藤井風です。先日 YouTube Live で配信を行ったね、弾き語りのライブは本当に大好評でまさに天才という貫禄を 22 歳にして示していたんですけれども、今月発売になる藤井風のファーストアルバムから一曲紹介したいと思います。曲紹介の方はスタジオで速水さんからお願いできますでしょうか。
速水 健朗:
いや、ごめん、charlie がしてください。
charlie:
あ、大丈夫? 分かりました。聴いてください。藤井風で「優しさ」。
〔Part 1 はここまで〕